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【連載】揺らぐ名門 米ハーバード大の政治問題(下)反ユダヤ主義にDEIの影響

揺らぐ名門 米ハーバード大の政治問題
米ハーバード大のキャンパス内に並ぶテントやパレスチナ支持を訴える横断幕= 2024年5月、東部マサチューセッツ州ケンブリッジ(AFP時事)

2023年10月のイスラム組織ハマスによるイスラエルへのテロ攻撃の直後、ハーバード大で、親パレスチナ派の学生2人が、ユダヤ人学生を取り囲み、「恥を知れ」などと罵声を浴びせ、その後、2人は暴行容疑で告発された。

この事件は大きな注目を集め、当時上院議員だったミット・ロムニー氏らハーバード・ビジネス・スクールの卒業生5人は公開書簡で、「深刻な懸念にもかかわらず、大学のリーダーシップは衝撃的に麻痺(まひ)している」と述べ、大学側に強い対応を求めた。

今年4月、2人の学生は裁判所から80時間の社会奉仕活動と「怒りのコントロールプログラム」への参加を命じられた。ところが、そのうち一人は最近、ハーバード神学校の卒業式において生徒代表に選ばれるという栄誉を受けた。

またもう一人は、法律雑誌「ハーバード・ロー・レビュー」から6万5千㌦の奨学金を含むフェローシップを授与された。同誌の理事会には学部長を含む複数のハーバード教授ら関係者が名を連ねており、今回の決定は、その承認を得たものとされる。

こうした事実は、ユダヤ人に対する嫌がらせや暴力行為を容認する風潮が広がっていることを示している。

これを助長したと指摘されるのが、米大学で推進されてきた「多様性、公平性、包括性(DEI)」だ。DEIは多様性を掲げているものの、実際には、白人と有色人種を「抑圧者」と「被抑圧者」に分けるマルクス主義的な考えに基づいており、人種間の対立をあおり、白人への逆差別を助長するなどと保守派から批判されてきた。

この中で、ユダヤ人も「抑圧者」とされたことで、憎悪をあおってきたとされる。かつてカリフォルニア州のデアンザカレッジでDEI責任者を務めていたタビア・リー氏は23年10月に米メディアに寄稿し、「有害なDEIイデオロギーは、イスラエルとユダヤ人に対する憎悪をあおっている」と告発した。

DEI廃止を求めるトランプ政権の圧力が高まる中、ハーバード大は4月、その司令塔だった「DEIオフィス」を、「コミュニティー・キャンパスライフ推進室」へと名称を変更するなどの対応を取った。

しかし、保守派ジャーナリストのクリストファー・ルフォ氏が入手した内部文書には、教職員の採用プロセスに関して、明確に「人種」を重視する方針が継続していることが示された。例えば、採用担当者は「初期リストに女性やマイノリティーを必ず含めること」や「女性やマイノリティーの応募書類をまず読むことを検討する」よう求められているほか、管理職や支援職の採用に対して明確な人種別の目標を設定していることが分かった。

こうした状況の中、同大のガーバー学長は、トランプ政権の要求を拒否し、法廷闘争を展開するなど全面対決に突入しているが、同大の卒業生で米著名投資家のビル・アックマン氏は、X(旧ツイッター)で、現在の対立路線を突き進めば取り返しのつかない損害がもたらされると警告した。

以前は大口献金者だったが、反ユダヤ主義的活動に対して大学側の対応を問題視し、寄付を停止した同氏は、DEIについて「約20年間、ハーバードの学生は、世界は抑圧者と被抑圧者との間の戦いとしてのみ理解できると教えられてきた」と指摘。これが、キャンパス内での反ユダヤ主義の台頭を許したと主張した。

トランプ政権がハーバード大学に対して、能力に基づく採用、DEIの廃止、政府への報告要件の完全な順守などを求めていることについて、「正当性のある要求」だと指摘。「ハーバードが何をすべきかは、単純明快だ。政権の要求を速やかに受け入れ、必要なすべての措置を講じる約束をすることだ」と訴えた。

(ワシントン山崎洋介)

【連載】揺らぐ名門 米ハーバード大の政治問題(上)  中国の影響力に深刻な懸念

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