トップ国際北米【連載】揺らぐ名門 米ハーバード大の政治問題(上)  中国の影響力に深刻な懸念

【連載】揺らぐ名門 米ハーバード大の政治問題(上)  中国の影響力に深刻な懸念

揺らぐ名門 米ハーバード大の政治問題

留学生受け入れ資格剥奪

トランプ米政権が名門ハーバード大学に対して留学生受け入れ資格の剥奪を通告した。多くの留学生の将来を左右する厳格な措置は批判を呼ぶ一方で、国益を守るために必要な対応として評価される側面もある。同大が中国の影響力拡大や、反ユダヤ主義の問題について十分な対応を取ってこなかったことによる、安全保障上の深刻な懸念があるためだ。(ワシントン山崎洋介)

米ハーバード大=2024年1月、東部マサチューセッツ州ケンブリッジ(EPA時事)

昨年4月、ハーバード大の講堂で撮影された一幕が、ソーシャルメディア上で出回り、衝撃をもたらした。駐米中国大使の謝鋒氏の講演中、女子学部生が、「中国はうそつきだ」と書いた横断幕を掲げ、中国政府による人権侵害に抗議。これに、若い男性が近づき、周囲が傍観する中、女子学部生を無理やり会場から引きずり出した。

保守系ニュースサイト、ワシントン・フリー・ビーコンによると、この男性は、警備権限を持たない中国出身の大学院生で、中国共産党が監督する学生組織「中国学生学者連合会」に所属。女子学生を引きずり出した行為は、大学の警察署で暴行事件として記録された。

ところが、調査に乗り出した米下院中国特別委員会が入手した文書により明らかになったのは、同大の驚くべき対応だった。抗議行動を行った女子学部生に対して懲戒処分を科した一方で、この大学院生に対しては処分を行わず、むしろ謝罪の手紙を送ったのだ。

これは、同大の露骨な中国への配慮を浮き彫りにしている。同大でのこうした中国の影響力の拡大に対して近年、安全保障上の観点から厳しい目が向けられている。

下院中国特別委員会のジョン・モーレナール委員長ら3人の共和党下院議員がガーバー学長宛てに送った書簡によると、同大は中国政府系の準軍事組織「新疆生産建設兵団」のメンバーに、2024年までに数回、医療政策に関する研修を実施した。この組織は、ウイグル人ら少数民族の強制収容や強制労働など中国政府による弾圧政策を実行してきたとされる。

20年には米財務省が、新疆における深刻な人権侵害を理由に同組織に制裁を科している。共和党議員らは、この研修が「法律違反の恐れがあるだけでなく、ウイグル人など少数民族のさらなる弾圧に利用された可能性がある」と懸念する。

また書簡では、ハーバード大学が、国防総省から提供される研究資金を活用し、清華大学をはじめとする中国軍と関係の深い大学との共同研究プロジェクトを実施していたことなど、安全保障上の懸念がある中国との広範な協力関係が指摘されている。

中国との協力関係を深める背景には、中国からの巨額の寄付に依存している現状がある。ブルームバーグ通信の分析によると、13年から20年までの間にハーバード大学が中国から受け取った寄付総額は、米国内の大学の中で最も多く、9370万㌦に達した。寄付者の身元に関する詳細な情報を公表していないなど、透明性の欠如も問題視されている。

国土安全保障省のノーム長官は、同大の留学生受け入れ停止措置を発表した声明で、「現政権は、暴力や反ユダヤ主義を助長し、キャンパス内で中国共産党と協力した責任をハーバード大学に問う」と表明。一方、大学側は、「違法だ」と反発し、取り消しを求めて提訴。連邦地裁は23日、政権の措置を一時的に差し止める決定を下した。

法的争いは続くとみられるが、ハーバード大が、中国の影響力拡大に伴う透明性欠如や安全保障上の懸念に対処しなければ、今後も厳しい目が向けられることは避けられない。

【連載】揺らぐ名門 米ハーバード大の政治問題(下)反ユダヤ主義にの影響

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