~その背景と対日意識の本音~
アメリカのトランプ政権が2025年3月26日に輸入自動車および自動車部品に対して25%の追加関税を課す文書に署名し、4月3日から発動すると発表したことは、日本を含む多くの貿易相手国に衝撃を与えた。
日本政府はこれまで繰り返し適用除外を要請してきたが、トランプ政権は一律関税の方針を貫いた。なぜトランプ政権はこのような決定を下したのか。

●アメリカが25%の関税を課す明確な意図とは
トランプ政権が自動車に25%の追加関税を課し、日本を含むすべての国を対象とした一律適用を選択した背景には、いくつかの明確な意図がある。第一に、トランプ大統領が掲げる「アメリカ第一主義」の徹底がある。選挙戦を通じて彼は、アメリカの貿易赤字を削減し、国内製造業と雇用を守ることを公約としてきた。自動車産業はアメリカ経済にとって重要な柱であり、外国からの輸入車が国内メーカーの競争力を奪っているとの認識が強い。
トランプ氏は「関税をなくす唯一の方法はアメリカ国内に工場を作ることだ」と繰り返し述べており、関税を通じて海外メーカーに米国での生産を強制する狙いがある。一律関税は、この方針を例外なくすべての国に適用することで、アメリカ市場への依存度が高い国々に圧力をかける戦略だ。
●トランプ関税は交渉の道具
第二に、一律関税には交渉の道具としての側面がある。トランプ政権は関税を外交手段として活用する姿勢を明確にしており、適用除外を求める国々に対して譲歩を引き出すディールの材料とする意図がうかがえる。
日本が適用除外を要請してきたにもかかわらず、それを認めなかったのは、日本との二国間交渉でさらなる経済的・政治的利益を得ようとする計算があると考えられる。例えば、米国産農産物の市場開放や、防衛負担の増加など、日本側に譲歩を迫るカードとして一律関税にした可能性があろう。
●相互関税の推進
第三に、「相互関税」という概念がトランプ政権の貿易政策の中核にあることも見逃せない。相互関税とは、貿易相手国が米国製品に課す関税率や非関税障壁を基準に、米国が同等の関税を課すという考え方だ。トランプ政権は、日本が米国車に対して厳しい安全基準や環境基準を設けていることを非関税障壁とみなしており、これを不公平な貿易慣行と批判してきた。たとえ日本の対米関税率が低いとしても、こうした構造的な障壁が存在する限り、日本を特別扱いする理由はないと判断したことが考えられる。
日本政府は、トランプ政権の発足以降、自動車関税の適用除外を繰り返し要請してきた。自民党の小野寺政務調査会長が2025年3月27日に米国のヤング臨時代理大使と会談し、「自動車に対する25%の関税は日本経済にも大きな影響がある」と訴えたように、日本側は経済的打撃を回避するための外交努力を続けた。日本の自動車産業は米国に多くの車や部品を輸出しており、追加関税が発動すれば価格競争力の低下や利益圧迫が避けられない。
トヨタやホンダといった大手メーカーは米国での現地生産を拡大しているものの、部品調達や生産能力の限界から、即座に全面的な現地化は難しいのが実情だ。
●日本は経済的「搾取者」としての認識
しかし、日本政府の要請がトランプ政権に受け入れられなかったのは、日米間の貿易不均衡に対する米国側の根深い不信感があるからだ。2024年のデータによれば、日本の対米輸出全体の約3割が自動車関連であり、米国はこれを貿易赤字の主要因とみなしている。さらに、米国通商代表部(USTR)の報告書では、日本の自動車市場における米国車のシェアが低い理由として、非関税障壁が指摘されている。トランプ政権は、日本が米国車に不利な市場環境を作り出しているとの見方を強めており、適用除外を認めることはこの不均衡を是正する機会を失うと判断したのだろう。
一律関税の決定から読み取れるトランプ政権の対日意識の本音は、同盟国としての日本を尊重しつつも、経済的には対等な競争相手とみなす二面性にある。トランプ氏は3月26日の演説で、「敵よりも友の方がひどいことも多かった」と述べ、日本やドイツといった同盟国が米国市場を利用して富を築いてきたとの不満を露わにした。この発言は、日本が安全保障面でのパートナーであると同時に、経済面では「搾取者」と見なされていることを示している。
この対日意識には、歴史的な文脈も影響している。戦後、日本は自動車産業を通じて米国市場に進出し、1980年代には日米貿易摩擦の中心となった。トランプ政権はこの過去を念頭に置き、日本が再び米国経済を脅かす存在と映っている可能性もあろう。相互関税の方針に非関税障壁を含めたのも、日本のような先進国が関税以外の手段で市場を保護しているとの疑念が背景にある。燃料電池車への補助金や独自の安全基準が米国車にとって不利とみなされ、日本への不信感を増幅させたのだ。
●対日政策、トランプ政権の本音とは
さらに、トランプ政権の本音には、日本への依存と牽制のバランスも見られる。安全保障面では中国への対抗として日本の協力が不可欠だが、経済面では日本の優位性を抑え込みたいという意図が働いている。一律関税は、日本に対して「同盟国だからといって特別扱いはしない」というメッセージを発する一方、交渉を通じて日本の譲歩を引き出す余地を残す戦略でもある。
(この記事はオンライン版の寄稿であり、必ずしも本紙の論調と同じとは限りません)