
トランプ米大統領の就任以降、米企業の多様性離れが加速している。「逆差別」やジェンダーイデオロギーの推進に対する保守派の反発を背景にしたものだ。一方、左派団体はこうした企業に対して不買運動を呼び掛けるなど、反発している。(ワシントン山崎洋介)
かつて米企業がこぞって採用した「多様性、公平性、包括性(DEI)」だが、今では、雪崩を打ったようにその見直しが進んでいる。
米コンピューター大手IBMは今月、経営陣の報酬を多様性目標に結び付けることを廃止したと報じられた。マイノリティー(少数派)が経営する契約業者が優遇される仕組みも見直すという。
「コロナビール」などのアルコール飲料を製造・販売する米コンステレーション・ブランズも8日、DEIプログラムの見直しを発表。性的少数者の擁護団体ヒューマン・ライツ・キャンペーンによる企業の性的少数者に対する取り組みを評価する指標「企業平等指数」への参加をやめ、評価対象から自社を除外した。
米企業では、管理職や従業員に占める女性や、人種・性的少数者の比率の数値目標などを定める多様性目標やDEI部署を廃止したり、LGBT関連の活動への支援を停止するなど、DEI見直しの動きが相次いでいる。
こうした動きは昨年から始まり、今年に入ってからも、ゴールドマン・サックスなどの大手金融機関やメタ(旧フェイスブック)などIT大手、ハンバーガーチェーンのマクドナルドなどがDEIの見直しを発表。米メディアによると、3月中旬の時点で、昨年以降に少なくとも30の大手企業がDEI方針を縮小、撤回している。
DEIは、2020年にミネソタ州で白人警官から暴行を受けて亡くなったジョージ・フロイドさんの事件後に起きた抗議活動を受け、多くの企業で強化された。しかし、連邦最高裁が23年に大学入試選考で人種的マイノリティーを優遇する措置を違憲と判断したことをきっかけに、米企業でもDEI方針の見直しが始まった。
この動きは、1月に発令されたトランプ氏の大統領令によって加速した。同氏は1月に大統領令に署名し、連邦機関に対してDEIプログラムを終了するよう指示するとともに、民間企業にも「違法なDEI差別と優遇措置」を終了するよう促した。
保守派は、人種や性別に基づいて採用や昇進を行うことが逆差別だなどとしてDEI施策を批判してきており、訴訟にもなっていた。それに加え、DEI方針の下、ジェンダーイデオロギーが推進されてきたことへの保守派の反発も大きかった。
23年5月、大手小売店ターゲットは、「プライド月間」を前にプライドコレクションとして、2千点以上のLGBT関連商品を大々的にアピール。中でも、男性器を持つが女性を自認するトランスジェンダー向けの水着やドラッグクイーン(女装パフォーマー)をたたえるメッセージが書かれた子供向けTシャツが、保守派の強い反発を招き、ボイコット運動を引き起こした。その結果、同社は、関連商品の一部撤去を余儀なくされた。
そのターゲットはトランプ氏による大統領令を受けて今年1月にDEIの見直しを発表。黒人が所有する企業への20億㌦の投資計画のほか、ヒューマン・ライツ・キャンペーンによる企業平等指数への参加を中止すると発表した。
DEIを推進する米企業への不買運動を呼び掛けるなどの圧力をかけ、DEI見直しを求めてきた保守派の活動家ロビー・スターバック氏は、この指数について「左翼主義を米企業に押し込むための社会信用システム」と、中国による国民監視システムになぞらえ批判していた。
一方、DEIを見直したターゲットやマクドナルド、ウォルマートなどは、左派団体などが主導する不買運動の対象となり、一部で売り上げに影響が出ているとの見方もある。また大手IT企業のアップルやマイクロソフト、小売り大手コストコはDEI見直しの動きに抵抗し、企業の社会的責任の一環として、引き続き推進する方針を示している。
これに対し司法省のボンディ長官は民間企業のDEIプログラムが違法であるかどうかを評価し、法的措置が取られる可能性を示唆している。今後、DEI見直しの動きがさらに拡大するかは、政権の対応にも左右されそうだ。