トランプ政権が発足して3ヶ月となる中、トランプ関税をめぐる諸外国の混乱は依然として続いている。トランプ大統領は、選挙戦から一貫して関税政策を「アメリカ第一主義」の柱として掲げてきた。
しかし、その運用には「実際に発動する関税」と「交渉の脅しとしての関税」という二面性が混在しており、国際社会に不透明感と不安をもたらしている。ここではこの二面性に焦点を当てつつ、トランプ関税の背景、影響、そして今後の展望を解説する。

●トランプ関税で報復関税の連鎖始まる
まず、トランプ関税の「実際に発動する関税」としての側面を見ていく。トランプ氏は、自らを「タリフマン(関税男)」と称し、貿易赤字の削減や国内産業の保護を目的に、具体的な関税措置を実施してきた。
例えば、メキシコとカナダからの輸入品に25%の関税を課す措置は、北米自由貿易協定(NAFTA)の後継であるUSMCA(米・メキシコ・カナダ協定)を事実上無視する形で発動された。また、中国に対しては10%の追加関税を課し、半導体や石油などの戦略的品目への関税引き上げも検討中である。
これらの措置は、米国の製造業や農業を保護し、雇用を創出する狙いがある。トランプ氏は、関税収入を財源として国内減税やインフラ投資に充てる構想も示唆しており、経済政策の一環としての現実性が感じられる。
実際に発動された関税は、対象国に即座に影響を及ぼしている。カナダのトルドー首相は「強く立ち向かう」と報復を宣言し、米国からの輸入品に25%の関税を課す対抗措置を発表した。
中国も米国産農産物に最大15%の関税を課すなど、報復の連鎖が始まっている。これにより、グローバルサプライチェーンは混乱に陥りつつあり、特に米国企業がメキシコやカナダの工場から輸入する部品のコストが上昇している。
消費者にとっては、輸入品の価格上昇が生活に直接響く可能性が高く、インフレ圧力も懸念されている。米国経済へのブーメラン効果も指摘されており、関税の「現実性」は諸刃の剣であることが浮き彫りだ。
●脅し関税はディールの手段
一方で、トランプ関税には「脅しとしての関税」という側面も顕著である。トランプ氏は、関税を外交交渉の武器として活用する姿勢を鮮明にしている。例えば、日本に対しては「通貨安誘導をやめなければ関税を少し上げる」と警告し、円安操作を牽制した。
また、EUに対しては、報復関税への対抗として酒類に200%の関税を課す可能性を示唆している。
これらの発言は、具体的な発動時期や対象品目が曖昧であり、交渉を有利に進めるためのブラフと解釈される向きもある。実際、2月初旬にメキシコとカナダへの関税発動を脅した際、直前に両国首脳と協議し30日間の発動停止を決めた例がある。
このように、トランプ氏は関税を「発動するぞ」とちらつかせつつ、譲歩を引き出す「ディール(取引)」の手段として利用している。
●脅し関税の効果は
この「脅し」の効果は一定程度認められる。メキシコは不法移民対策の強化を約束し、カナダも通商交渉での妥協を示唆した。
しかし、脅しがエスカレートすれば、相手国の反発を招き、貿易戦争がさらに激化するリスクもある。特に中国は、米国企業を「信頼できないエンティティー」リストに追加するなど、強硬姿勢を崩していない。
EUも対抗措置を準備しており、トランプ氏の「脅し」が裏目に出る可能性は否定できない。諸外国にとっては、どの発言が本気で、どの発言が交渉戦術なのか見極めるのが難しく、混乱が深まる要因となっている。
●トランプ関税は政権内の分裂や政策の不確実性に
トランプ関税の二面性は、政権内の分裂や政策の不確実性とも結びついている。経済顧問の一部は関税によるインフレや市場混乱を懸念し、慎重な運用を求めているとされる一方、強硬派は「アメリカ第一」を貫くため大胆な発動を支持している。
この内部分裂が、関税政策の一貫性を欠く要因となり、諸外国に予測不能な印象を与えている。また、トランプ氏自身が株式市場の動向に左右されず、自身の直感や支持層へのアピールを優先する傾向も混乱を助長している。
3月には、市場がリスクオフに傾き、米国株が下落したにもかかわらず、関税政策を緩める気配は見られなかった。
●トランプ関税、今後の展望
諸外国への影響は大きい。輸出産業への打撃や、日米間の通商交渉での圧力強化が懸念される。中国にとっては、実質GDP成長率が1%鈍化するとの試算もあり、デフレリスクが再燃する恐れがある。
EUやカナダも、サプライチェーンの見直しや代替市場の模索を迫られており、自由貿易体制が揺らぐ危機に直面している。
いずれにせよ、トランプ氏の交渉術は予測困難であり、諸外国は柔軟な対応を迫られるだろう。日本としては、貿易協定交渉や、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)を活用した対抗策が鍵となるかもしれない。
(この記事はオンライン版の寄稿であり、必ずしも本紙の論調と同じとは限りません)