トップ国際北米米政権 長期戦終結へ圧力 中国警戒、露との分断狙いも 【連載】ウクライナ侵攻4年目 米欧のあつれき (下)

米政権 長期戦終結へ圧力 中国警戒、露との分断狙いも 【連載】ウクライナ侵攻4年目 米欧のあつれき (下)

11日、サウジアラビア西部ジッダで開かれた米ウクライナの高官協議後、撮影に応じる(左から)米国のウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)、ルビオ国務長官、ウクライナのイェルマーク大統領府長官、シビハ外相、ウメロフ国防相=ウクライナ大統領府提供(AFP時事)

ウクライナは米国が提案するロシアとの30日間の停戦案を受け入れた。実現はロシアが受諾するか否かに懸かっており、「ボールは、ロシア側のコートにある」 (ルビオ米国務長官)という、新たな局面を迎えた。

2月末の米ウクライナ首脳会談で、トランプ米大統領とウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシアに対する外交姿勢を巡って口論の末に決裂。トランプ氏は、ゼレンスキー氏が「和平の準備ができていない」として、情報共有と武器供給の一時停止を決定。ウクライナの「後ろ盾」となってロシアに対抗したバイデン前政権の姿勢を一転させる厳しい対応は、世界に衝撃を与えた。

しかし今回、米国は停戦交渉に前向きな姿勢を見せたウクライナ側から一時停戦への合意を取り付けた。今後はロシアの出方次第ではあるものの、トランプ氏の「ショック療法」により、3年以上続く長期戦の終結に向けた重要な突破口が開かれた可能性がある。

ウクライナ戦争を巡りバイデン氏は、ウクライナを「必要な限り」支援するとの発言を繰り返した。一方で、核大国ロシアとの紛争のエスカレートを恐れ、ミサイル、戦車などの軍事支援の提供を制限、もしくは遅らせてきた。戦争は消耗戦となり、ロシアに比べ人口が3分の1以下のウクライナは兵士不足が伝えられるなど、戦況はロシア優位に傾いている。

プーチン氏を「戦争犯罪者」と非難し交渉を拒否したバイデン氏に対し、「無意味な戦争」の終結を訴えるトランプ氏は、和平の「仲介役」を自任する。プーチン氏を持ち上げるような発言もすることなどから、「ロシア寄り」とみられがちだが、実際には1期目で、ウクライナへの攻撃用武器支援など対露強硬策を取ってきた。今後、経済制裁などをテコに、硬軟両様の手法で、落としどころを探るとみられる。

当面の焦点は、一時停戦の呼び掛けにプーチン氏がどう対応するかだ。トランプ氏はプーチン氏との良好な関係を強調してきたが、もし同氏が拒否すれば、トランプ氏はより強硬な姿勢を取るよう迫られる。

トランプ氏が停戦交渉に強い意欲を示すのは、より長期的な展望もあるからだ。ウクライナ侵攻後、西側諸国からの制裁に直面したロシアは、中国への依存を強めた。中国を最大の脅威と捉えるトランプ政権は、中露分断を図ろうとしている。

トランプ政権のケロッグ特使(ウクライナ・ロシア担当)は6日の講演で、停戦交渉は、ロシアとの関係を「リセット」させるという、より大局的な戦略の一環だと述べた。同氏は、ロシアが中国のほか、北朝鮮やイランとも関係を強化していることについて「4年前には、このような事態に直面したことはなかった」と危機感を表明。「ロシアを孤立させ、関与を避けることはもはや実行可能でも持続可能でもない戦略である」と述べた。

一部専門家はこれについて、トランプ氏の「逆ニクソン」戦略として注目している。これは、1970年代初頭に当時のニクソン大統領が中国を当時のソ連から引き離そうとしたことの逆を狙うということだ。

米国の歴史学者で戦略家のエドワード・ルトワック氏は最近の論考で、ロシアがシベリアに浸透する中国に懸念を深めていると指摘。「トランプ氏はこの機会を捉えたようだ。プーチン氏がウクライナで有利な結果を追求する中で、彼を中国から引き離すチャンスがあると気付いたのだ」と主張した。

その一方で、欧州諸国との亀裂が深まるリスクや、中露関係が強固であり分断が容易でないことなども指摘されている。いずれにしても、トランプ氏のアプローチは今後の展開次第で、世界情勢を一変させる可能性もはらんでいる。

(ワシントン山崎洋介)

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »