
――トランプ米大統領は就任初日から多くの大統領令を出すなど積極的に動いているが、2期目のスタートをどう見る。
とにかく忙しく動いている。トランプ氏は多くのことを実行すると公約していたが、実際に国境の安全確保や連邦政府職員の削減など、そのスピードの速さに驚かされている。
――トランプ政権の外交・安全保障チームをどう評価する。
ルビオ国務長官とウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)は、共和党の伝統的な外交観を持ち、民主党議員からも尊敬されている。これに対し、ヘグセス国防長官は、過去の疑惑への懸念もあり、多くの民主党議員が不適格だと考えた。
トランプ氏は政権内に異なる意見や視点を取り入れようとしているのだろう。自分の考えに沿った人材だけを集めているわけではない。これはトランプ氏に批判的な人たちにとっても安心材料ではないか。

――中国、ロシア、中東など重要な国際問題が山積しているが、トランプ氏は何を最優先すると予想するか。
一つ選ぶとすれば、やはり中国だろう。すべてが中国に懸かっている。
私は長年、国防総省を取材してきたが、彼らは中国を「ペーシング・チャレンジ(刻々と深刻化する脅威)」と呼んでいる。極超音速兵器や人工知能(AI)、サイバー防衛への投資など、米国が行っていることはすべて中国を意識したものだ。例えば、中国の極超音速兵器を撃退する防衛力を確保することで、中国の先を行こうとしている。
――トランプ氏の関税政策が各国を揺さぶっている。
トランプ氏は戦略の一部として、関税の脅しを交渉ツールとして考えている。ビジネスマンとして成功した経験に基づいているのだろう。
メキシコ、カナダ、コロンビアなどが不法移民対策で協力するようになった。現時点では関税の脅しは効いている。
――中国に対する10%の追加関税をどう見る。
関税は他の分野と連動している。南シナ海や南米における中国の動きを押し返す圧力として、関税という経済的ツールを利用することができるのかどうか。それを見極めることが、少なくとも動機の一部になっている。
――トランプ政権の圧力で、中米パナマが中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」からの離脱を決めた。同政権は世界各地で中国の影響力を排除しようとしているように見える。
そうだ。パナマはその一例だ。中国はアフリカでプレゼンスを拡大し、軍事基地を増やそうとしていることへの懸念が出ている。
トランプ政権はどうすれば一帯一路を切り崩し、世界各地での中国の影響力を弱めることができるのか。それが4年間にわたる全体的な目標の一部だ。アメとムチを含め、具体策はこれから見えてくると思う。
――トランプ氏はロシアをどう見ているか。
ロシアは社会的にも経済的にも問題を抱えるが、他のどの国よりも多くの核兵器を持っている。トランプ氏はロシアが世界の主要プレーヤーであるという現実を認識しているのだと思う。
米国は数十年にわたり、ソ連との戦争を避けようとしながらも、彼らと向き合わなければならなかった。トランプ氏もそのようなレンズでロシアを見ている。ロシアを批判するのは簡単だが、彼らと向き合わなければならない現実がある。
兵器調達体制を抜本改革へ
――トランプ政権は米軍を再建するために、どのような取り組みをするだろうか。
これから起きると予想されるのは、新たな兵器や能力の契約・調達・開発プロセスの抜本的な改革だ。国防総省が行ってきたこのプロセスは、これまで大幅に遅れることが多かった。トランプ政権はこれをずっと早めようとしている。
イーロン・マスク氏のような人物が政権内で大きな発言力を持つようになった今、国防総省内でもシリコンバレー的な考え方やビジネスの進め方が見られるようになるだろう。大手防衛企業と結んでいた数百億ドル規模の10年、20年の長期契約から、小規模で柔軟な企業とのより短い契約、より少ない費用で、早く兵器を世に送り出すことができるようになるかもしれない。
――ヘグセス国防長官はDEI(多様性、公平性、包摂性)に極めて批判的だ。
ヘグセス氏は国防総省では今後、「黒人歴史月間」や「女性歴史月間」などの“アイデンティティー月間”を祝うことをやめると発表した。バイデン前政権下では、国防総省内や世界各地の米軍基地で、これらの祝賀行事を行うために、多くの資源、時間、資金、労力を費やしていた。こうした取り組みから決別することは、米軍にとって大きな転換となるだろう。

――保守的だった米軍は左傾化が進んでいると指摘されるが。
左傾化しているのは軍の上層部で、世論調査が示すように、一般的な兵士たちは保守的で、大統領選でも伝統的に共和党寄りだ。米軍が政治的に左傾化しているというのは、少し誇張されていると思う。ただ、DEIに重点を置き過ぎてしまったので、それを変える必要がある。
(聞き手=本紙主幹・早川俊行)
=終わり=
世界に「常識」取り戻す 愛国でグローバリズムに対抗 【連載】怒涛のトランプ改革―米識者に聞く(1)世界政治学院学部長 ジェームズ・ロビンズ氏(上)
「力による平和」で秩序回復 【連載】怒涛のトランプ改革―米識者に聞く(2)世界政治学院学部長 ジェームズ・ロビンズ氏(中)
対露強硬姿勢は変わらず ガザの未来変える所有構想 【連載】怒涛のトランプ改革―米識者に聞く(3)世界政治学院学部長 ジェームズ・ロビンズ氏(下)
対中関税60%に引き上げも 【連載】怒涛のトランプ改革―米識者に聞く(4) 米国第一政策研究所中国部長 アダム・サビット氏(上)
援助の焦点歪むUSAID 【連載】怒涛のトランプ改革―米識者に聞く(5) 米国第一政策研究所中国部長 アダム・サビット氏(下)