
――アルゼンチンやイタリアでは、トランプ米大統領に近い考えを持つ政治指導者が政権を握り、フランスやドイツでも保守政党が伸張している。トランプ氏の再就任で、世界的な保守主義の潮流はさらに強まるか。
そう思う。アルゼンチンのミレイ大統領は、トランプ氏と似たスタイルで政府をカットしている。ただ、ポピュリストというよりはリバタリアン(自由至上主義者)に近いタイプだ。
これに対し、欧州はよりトランプ氏に近いポピュリストタイプだ。その国の偉大さを強調する一方で、経済政策では妥協する。トランプ氏も伝統的な共和党政治家が主張するような社会保障の削減を公約したことはない。
欧州の新興ポピュリスト政党は、経済よりも国境や言語といった基本問題への関心が高い。イタリアのメローニ首相やオランダのウィルダース自由党党首も、移民問題を中心に据えている。これはトランプ氏と同じだ。
同じ問題に直面する米国と欧州は連動している。欧州の動きは広範なものになっており、英国でもポピュリスト政党「リフォームUK」を押し上げている。

――トランプ政権は世界保健機関(WHO)からの脱退を表明した。
良いことだ。WHOをはじめとする国連機関は基本的な枠組みや援助を提供しており、維持すべきだとの意見もあるが、ほとんどのケースでわれわれの資金は適切に使われていない。国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)もそうだ。
一般論として、国際機関の官僚機構を切り捨てる方向に傾くべきだ。グローバリズムのビジョンを押し付けようとする勢力に利用されているからだ。また、戦略的に中国人を国際機関に送り込む中国に乗っ取られつつある。
――米国第一主義は、米国が自国の利益を最優先する孤立主義の印象を与える。しかし、実際にはリベラルなエリート層が推進するグローバリズムから国民を守るという理解でいいか。
正しい表現だ。最もシンプルな言い方をすれば、「アメリカ・ファースト」は「アメリカ・アローン(米国単独)」ではない。同盟関係を否定し、世界とは関わらないという意味ではない。
世界からの脱退ではなく、WHOのような本質的に反米、反自由の国際機関からの脱退だ。また、イラクやアフガニスタンのように、すぐには終結しない戦争には介入しないということだ。
――グローバリズムの問題点とは。
グローバリズムの一つの側面は、特定のグローバルエリートの利益を優先させることだ。国境開放やDEI(多様性、公平性、包摂性)が彼らの最重要アジェンダだ。
著名投資家ジョージ・ソロス氏や世界経済フォーラム(WEF)は、ナショナリズム、特にトランプ氏が生み出した米国のポピュリズムを、エリートたちへの脅威と捉えている。
――トランプ政権は対外援助機関、国際開発局(USAID)を解体しようとしている。
これはトランプ政権が世界に背を向けることを意味するものではない。米国は説明責任のある予算で、より創造的な人権へのアプローチを再構築しなければならない。
対外援助の焦点を、LGBTのような“ウォーク(意識高い系)”社会問題から、食糧や水道のような基本的ニーズへとシフトする必要がある。本当に死と破壊の脅威にさらされている人々を助けることができるように、「難民」とは何かを再評価し、優先順位を決めなければならない。
また同時に、アフリカや南米のような戦略的地域への中国の浸透に対抗するプロジェクトにも重点を置くべきだ。
(聞き手=本紙主幹・早川俊行)
