トップ国際北米対中関税60%に引き上げも 【連載】怒涛のトランプ改革―米識者に聞く(4) 米国第一政策研究所中国部長 アダム・サビット氏(上)

対中関税60%に引き上げも 【連載】怒涛のトランプ改革―米識者に聞く(4) 米国第一政策研究所中国部長 アダム・サビット氏(上)

Adam Savit 米ペンシルベニア州立大卒。安全保障政策センターなどを経て、現在、トランプ政権1期目の元高官らが設立した「米国第一政策研究所」(AFPI)で中国政策イニシアチブ部長を務める。

――トランプ米政権2期目のスタートをどう見る。

私の専門である外交政策に関しては、素晴らしいと思う。特別な脅威である中国に対し、圧力をゆっくりと高めている。トランプ氏が選挙戦で言及した60%の関税は良いアイデアであり、そこまで行くかもしれない。

ただ、トランプ氏は(中国が原料を製造し、メキシコの麻薬カルテル経由で米国内に密輸されている)合成麻薬フェンタニル対策と結び付けて、10%という低い関税から始めた。中国の習近平国家主席が歩み寄るのであれば、エスカレーションを解く機会を与えているのだ。

――フェンタニル問題の深刻度は。

大問題だ。フェンタニルは安価で強力、しかも簡単に手が入る。ピークは越えたが、年7万~8万人が中毒死しており、米社会の病理となっている。

米下院中国特別委員会は、中国政府がフェンタニルや原料を輸出する企業に還付を行っている証拠を中国語のインターネット上で突き止めた。つまり、中国政府はこれらの企業の活動を認識しているのだ。

――中国はフェンタニルで米社会を不安定化させようとしているのか。

そうだ。中国はフェンタニルを意図的に利用している。最初から大きな計画があったかどうかは分からない。だが、米国で問題が大きくなるのを見て、さらに事態を悪化させようと日和見的にやっているのは確かだ。

――中国は報復関税で対抗しているが、トランプ氏は次にどのような手を打つか。

次は最恵国待遇の撤回だろう。そうすれば、中国はイランや北朝鮮と同列になり、より懲罰的な関税を容易にかけることができるようになるからだ。

正確な段階や具体的な対象は予測できないが、時間がたつにつれて、トランプ氏の忍耐が切れ、関税を徐々に引き上げていくだろう。

――トランプ政権は中米パナマに圧力をかけ、中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」からの離脱を表明させた。

大きな成果だ。これは「モンロー主義」の再宣言と言っていい。モンロー主義とは、米国は米大陸における優位を維持し、欧州の列強、特にスペインの介入を防ぐという外交原則だが、中国の介入を防ぐという現代の状況に当てはまる。

中国がパナマ運河の両端にある港を支配している事実に対し、ルビオ国務長官はすぐさま現地を訪れ、解決策を求めた。これは米大陸に対する米国の優位を再確認する優れた第一歩だ。

2日、パナマ運河を視察するルビオ米国務長官(中央)(AFP)

――トランプ政権は世界各地で中国の影響力排除を目指しているように見える。

必要なことだ。ただ、東南アジアやアフリカでは、中国が進める開発プロジェクトに依存する国が多い。コンゴでは中国が重要な鉱物資源の大半を支配している。これらの地域で中国の支配を再編するには数年、数十年単位でかかる。パナマ運河と比べてはるかに複雑な問題だ。

――激化する米中の競争を「新冷戦」と称する見方があるが、トランプ政権はそのような認識を持っているか。

そうだ。トランプ政権の多くの人たちは、その枠組みで捉えている。この枠組みが有益なのは、より多くの一般国民が冷戦時代に対立したソ連のように、中国との関係を理解するようになったことだ。

ただ、ソ連との違いは、中国の方がはるかにダイナミックな経済力を持っていることだ。新冷戦は有用なレトリックではあるが、冷戦時代とまったく同じというわけではない。

防衛産業基盤の回復急務

――レーガン元米大統領はソ連に対し、「われわれが勝ち、彼らが負ける」と述べ、冷戦に勝利する決意を明確に示したが、トランプ氏はどうか。

トランプ氏も内心は同じメンタリティーだと思う。ただ、中国に対して「邪悪」などという言葉は使わず、よりニュアンスに富んだ戦略的アプローチを取っている。

12日、米ホワイトハウスに掲げられたレーガン元大統領の肖像画を背後に語るトランプ大統領(UPI)

――中国が近い将来、台湾に侵攻するシナリオをどう考えるか。

2027年を予想する見方が多いが、私はそれ以降だと考えている。

中国の軍事力は拡大しているが、100マイルもある海峡を越えた侵攻は、過去に一度も行われたことがない。「Dデー(ノルマンディー上陸作戦)」と比較されるが、英仏海峡は30マイルだった。陸の国境を越えるだけだったウクライナ侵攻とは違う。習近平体制にとってリスクは極めて大きい。

――トランプ政権は中国に対する抑止力を高めるためにどのような対応が必要か。

問題に対する認識は一致している。それは防衛産業基盤に深刻な問題を抱えているということだ。

例えば、バージニア級原子力潜水艦を年2隻建造することになっているが、実際は年1・25隻の建造能力しかない。米英豪の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」で豪州に同潜水艦を供与することになっているが、この状況では自国分に加えて豪州分も建造することはできない。弾薬もウクライナ戦争で枯渇している。

次に太平洋における部隊配置の問題がある。日本本土や沖縄、グアムの基地は極めて重要だが、中国のミサイル・航空能力を考えると、部隊の分散を進めなければならない。

さらに、中国は現在、世界最大の海軍、つまり最も多くの艦船を保有している。しかも、中国は自国の沿岸海域だけで活動すればいいのに対し、米国は中東から大西洋、太平洋に至るまで、全世界に義務を負っている。従って、中国に凌駕(りょうが)される可能性があるという大きなリスクを抱えている。

――トランプ政権は日本に対しても防衛費増額を求めるだろうか。

そう思う。国防次官(政策担当)に指名されたエルブリッジ・コルビー氏はそのような考え方だ。台湾の防衛費についても、少なくとも域内総生産(GDP)比5%以上であるべきだと主張している。

【関連】【連載】「もしトラ」どうなる米外交 元米国防副次官補 エルブリッジ・コルビー氏に聞く

――中国は核戦力の増強も目覚ましい。

深刻な問題だ。冷戦時代、米国とソ連は敵対関係にあったとはいえ、核兵器の数や配備方法を管理する条約があった。だが、中国にはそうした協定はない。

つまり、現在は三つの主要核保有国が存在し、そのうち1カ国が協定に加わらず、急速に核保有を増やしている。より不安定な状況をつくり出し、米国の脆弱(ぜいじゃく)性を高めている。

(聞き手=本紙主幹・早川俊行)

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