
――トランプ米大統領はウクライナ戦争を終わらせることができるか。
ウクライナ停戦を実現できていない理由の一つは、外交を機能させる米国のイニシアチブが欠如していたことだ。ウクライナや同盟国に多くの軍事援助を行ってきたが、話し合いはまるで進まなかった。
米国内で停戦や和平を主張する者は、親ロシア派と非難される政治状況があったからだ。民主党ではそれが顕著だった。バイデン前政権は党内からの圧力があり、外交的解決を追求してこなかった。
トランプ政権になって外交ツールを用いることができるようになり、和平交渉に向けて動き始めている。だが、和平の条件は難しい。ロシアの侵略を正当化することはできないからだ。
ただ、ウクライナ人が絶え間ない戦闘からの解放を望んでいることは事実だ。彼らはロシアと勝ち目のない消耗戦をしている。プーチン露大統領は自国民がどれだけ死んでも気にしない。北朝鮮人でもイラン人でも誰でも戦場に投入する。
従って、パレスチナ自治区ガザのように、まず停戦から始めるべきだ。戦闘を止めてから話し合う。これはウクライナの降伏を意味しないし、ロシアが国境を書き換えることを承認するものでもない。最終的な解決には時間がかかるが、少なくとも戦闘を止めることはできる。
――トランプ氏はロシア寄りと批判されることが多いが。
トランプ氏が親ロシアというのは完全な誤りだ。トランプ氏は1期目にロシアに非常に厳しい態度を取った。ロシアの侵攻を食い止めたウクライナの殺傷兵器は、トランプ政権が提供したものだ。その供給を止めたのはバイデン政権だった。トランプ氏はウクライナを守ることに積極的だったのだ。
トランプ政権はロシアに非常に強力な経済制裁を科し、エネルギー分野でも米国産液化天然ガス(LNG)の欧州輸出を促進し、ロシアの影響力を削(そ)ごうとした。またどの歴代政権よりも多くのロシア外交官を追放した。
トランプ政権は2期目もロシアに強硬姿勢を取るだろう。
――トランプ政権の発足直前に、イスラム組織ハマスがイスラエルとの停戦に合意した。どのような力学が働いたのか。
停戦の枠組みは半年ほど前から議論されていたが、ハマスが合意に応じる動機となったのは、トランプ氏が大統領選で勝利したことだ。トランプ氏は何をするか分からない予測不可能な人物であり、ハマスはトランプ氏の意志を試すようなことはしたくなかったのだろう。
同様のことがレーガン大統領の時にも起きている。イランがカーター大統領時代に拘束した人質をレーガン氏が就任した日に解放した。同じ力学が今回の停戦合意をもたらしたのだ。
――トランプ氏はガザの住民を近隣諸国に移住させ、米国がガザを所有する構想を提示したが、どう評価する。
非常に興味深い。トランプ氏は議論の前提を変えようとしている。
イスラエルが2005年にガザから撤退したことで、パレスチナ人は地中海に面する素晴らしい土地を手に入れた。国際援助をすべて開発や商業、観光に使っていれば、ガザをドバイやテルアビブのようにすることも可能だった。だが、彼らはそうしなかった。すべての資金がテロのためのトンネル建設やロケット弾・迫撃砲、横領などで消えた。
トランプ氏は不動産開発の経歴から、ガザは美しいビーチリゾート、「中東のリビエラ」になり得ると見ているのだ。だが、実際のガザは、テロリストキャンプになっている。これを変えるには、ハマスや過激派を排除するしかない。
そして米国や他の国々から投資を呼び込む。国際援助のようにテロリストに好きに使わせるのではない。投資家が実際に何かを建設し、所有し、監視し、汚職を無くす。そうしてガザを良くしていく。それがトランプ氏が言っていることであり、素晴らしいアイデアだ。
だが、ハマスがこれに同意することはない。彼らの信条は暴力と破壊だからだ。どう実現していくかは分からないが、これがうまくいく唯一の方法だろう。
米軍弱めたDEIを廃止
――トランプ氏はバイデン前政権が政府や軍に導入した「多様性、公平性、包摂性(DEI)」の廃止を進めている。
DEIは米軍に深刻なダメージを与えていた。部隊の結束を乱し、新兵募集にも悪影響が出ていた。戦略や戦術などを学ぶ貴重な時間が、無意味なDEIの教育カリキュラムに奪われていた。軍は戦争に勝つことに集中しなければならないが、DEIはその焦点を狂わせていたのだ。
人事評価にDEIが組み込まれ、有能でも尊敬もされていない者が、特定の人種、特定のライフスタイルを志向するという理由だけで将官に昇進していた。政治的理由で昇進した将官がトップに立てば、機能不全の軍隊となる。こうして悲惨なアフガニスタン撤退などの事態が起きた。
米軍は極左勢力の社会目標を実現するための実験台ではない。トランプ政権が米軍からDEIを排除する強力かつ迅速な措置を取ったことをうれしく思う。
――ヘグセス国防長官には米軍再建という重大な役割を任せられている。
ヘグセス氏は将官ではなく下級士官として、戦争を現場で戦った人物だ。若さとエネルギー、そして戦士だったことによる信頼性をもたらしている。若者たちに新たなインスピレーションを与えており、入隊希望者も増えている。
(聞き手=本紙主幹・早川俊行)