トップ国際北米「力による平和」で秩序回復 【連載】怒涛のトランプ改革―米識者に聞く(2)世界政治学院学部長 ジェームズ・ロビンズ氏(中)

「力による平和」で秩序回復 【連載】怒涛のトランプ改革―米識者に聞く(2)世界政治学院学部長 ジェームズ・ロビンズ氏(中)

ロナルド・レーガン元大統領の肖像画を背景に、ホワイトハウスの執務室で演説するトランプ米大統領=2025年2月12日ワシントンDC(UPI)

――トランプ米政権2期目のスタートは、1期目と比べてどうか。

トランプ大統領はダイナミックな「変革の代理人」として、持てる力を可能な限り迅速に行使している。わずか数週間で素晴らしい結果を出している。米国内の議論は完全に変わり、今後も続くだろう。まだ4年間の任期が始まったばかりだが、もう長い年月が経(た)ったように感じる。

1期目のトランプ氏は、ワシントンのことがよく分かっていなかった。周囲には最善の助言を与えることよりも、粗削りなトランプ氏を抑えることを使命と考えている者がいた。政府機関もトランプ氏に激しく抵抗した。このため、1期目は不安定なスタートとなった。

【前回】世界に「常識」取り戻す 愛国でグローバリズムに対抗 【連載】怒涛のトランプ改革―米識者に聞く(1)世界政治学院学部長 ジェームズ・ロビンズ氏(上)

2期目のトランプ氏には、4年間の考える時間があった。4年かけて計画を練り、優秀なチームを編成した。大統領を既に経験しているので、ワシントンを熟知している。もう1期目のような束縛を受ける必要がない。

トランプ氏は、世界における米国の地位を変えることにも非常に精力的だ。米国の政策に新たなダイナミズムとエネルギーを吹き込んでおり、実にエキサイティングだ。だが、まだ4年間の始まりにすぎない。

――バイデン前政権時代に、ロシアによるウクライナ侵攻やイスラム組織ハマスによるイスラエル奇襲が発生するなど、国際秩序は不安定化した。トランプ政権はこれを回復させることができるか。

政権発足からわずか数週間で、すでに安定化が進んでいる。パレスチナ自治区ガザは、停戦によって暴力が沈静化している。ロシアもウクライナを巡る交渉に前向きで、おそらく外交的な解決が見られるだろう。

太平洋地域も緊張が緩和されるだろう。トランプ氏が米国のパワーを行使する方法を知る人物であることを、中国の習近平国家主席も理解しているはずだ。バイデン前政権時代のような中国による挑発行為は起きないと思われる。

――トランプ氏はレーガン元大統領と同じ「力による平和」を掲げている。

「力による平和」は強い経済から始まる。やりたいことを実行するには、経済を健全化しなければならない。

次に必要なのは、健全な軍事的基盤だ。抑止力の目的は、戦争をすることではなく、強力かつ信頼できる軍事力を持つことで、戦争を抑止することにある。

レーガン氏の時代は、ソ連との冷戦競争が外交政策の中心だった。トランプ氏の場合は、直面する問題がさまざまあるが、やはり極めて重要になるのは中国への対応だ。

――トランプ政権は覇権主義的な動きを強める中国にどう対抗するか。

トランプ政権の対中政策はまだ明らかになっていないが、中国に追加関税を課したように、中国を押し返す最初の取り組みは貿易・経済面になるだろう。中国への技術移転を制限し、中国のスパイ活動やメディアへの浸透にも対抗していくだろう。

トランプ政権に期待するのは、核の近代化や先端技術開発に取り組むことだ。中国は米国の抑止力を弱める可能性のある新興技術に多大な投資をしているからだ。また宇宙も競争分野になるだろう。

――中国の台頭に対抗する観点から、日米同盟の役割をどう見る。

 極めて重要だ。日本は太平洋における最強の同盟国であり、地理的に中国との最前線に位置する。日本は大規模な防衛力、海空軍力、造船能力を持つ。共通の価値観を持ち、重要な貿易パートナーでもある。

 中国が自らを太平洋の覇権国と考えている限り、日米両国が強力な同盟関係を維持し、対抗することが重要になる。日米だけでなく、韓国、フィリピン、ベトナム、豪州、環太平洋圏全体を加えることも重要だ。

――トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)加盟国に国防費増額を求めているが、日本にも同じ要求をするのだろうか。

 そうは思わない。条約の構造が違うからだ。NATOには負担の分担というものがあり、加盟各国が果たすべき要件がある。トランプ氏はその未達成国に達成国の水準まで引き上げることを求めている。

 一方、日本との同盟は、共通の利益、共通の世界観に基づいている。日本が防衛費をどのくらい支出するかは日本次第だ。中国の動向を見て、大統領が支出を増やすよう促すことはあるかもしれない。だが、防衛費が不十分だから日本の同盟国ではありたくはない、ということはない。

――昨年の米大統領選で民主党のハリス副大統領が勝利していたら、台湾海峡有事のリスクが大幅に高まっていたのでは。

 それは間違いない。もしハリス氏が大統領になっていたら、バイデン前大統領の下で顕著になった米国のグローバルな指導力の低下が続いていただろう。ハリス氏は世界の舞台では誰からも尊敬も恐れもされず、米外交がどれほどひどいことになっていたか、想像もつかない。ハリス氏が負けて非常に安堵(あんど)している。

――中国による台湾侵攻を抑止するために、トランプ政権は何が必要か。

第一に、強いリーダーシップと決意を示すことだ。トランプ氏は敢然と行動できる人物だ。もし中国が台湾侵攻を示唆し、その準備の兆候があれば、大統領から即座に強力な反発を受けることになる。これが抑止力になる。

第二に、米経済を回復させることが重要だ。長期戦のための産業基盤の構築もその一環だろう。

第三に、核、宇宙、サイバーなどカギとなる分野で軍備増強を進めることだ。言うまでもなく重要になるのが海軍だ。レーガン氏も海軍を増強した。

トランプ氏とヘグセス国防長官がこれらに焦点を当て、中国に対する抑止力強化に必要な改革をもたらすことを期待する。

(聞き手=本紙主幹・早川俊行)

James S. Robbins 米国防大学教授、国防長官室特別補佐官、ワシントン・タイムズ紙上級論説記者などを歴任。現在、外交・安全保障分野を専門にするワシントンの大学院「世界政治学院(IWP)」学部長。米国外交政策協議会上級研究員、USAトゥデー紙コラムニストも務める。
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