トップ国際北米バイデン氏が日本製鉄によるUSスチール買収を阻止 根底にあるもの

バイデン氏が日本製鉄によるUSスチール買収を阻止 根底にあるもの

バイデン氏は1月3日、日本製鉄によるUSスチール買収を阻止する意思を表明した。以前からバイデン氏がそれに難色を示していることが報じられてきたが、同氏はこの買収案件は米国最大の鉄鋼メーカーを外国の支配下に置くものであり、米国のサプライチェーンにリスクをもたらすと指摘し、米国の象徴的な鉄鋼企業を保護することは米国大統領としての責務だとした。

これによって、買収計画は破談の見通しとなったが、日本製鐵は手続が不正として訴訟を辞さない構えだ。

では、バイデン氏が買収反対の意思を表明した背景には何があるのだろうか。まず整理しなければならないのは、この問題における日本側と米国政府側の認識のギャップである。

●日本製鉄側の認識

バイデン前米大統領と橋本英二・日本製鉄社長

日本製鉄によるUSスチール買収について、日本側の意見は、

「経済合理性の観点から極めて賢い選択肢であり、米国にも大きな利益をもたらす。それにも関わらず、同盟国である日本の企業による買収は安全保障上の観点からリスクとなるというのは理解し難い」

である。要は、日本側はこの問題を経済の世界のみで捉え、政治と経済を分離した前提で議論を展開しているのである。

●米国側が捨てられない自尊心、プライド

一方、米国政府側の捉え方はまるで異なる。

米国政府側もそれがUSスチールの再生に繋がり、多くの利潤をもたらすという経済合理性の認識を持っていたと思われるが、それは二の次に過ぎない。

米国政府側が第一に考えているのは、USスチールという米国を代表する企業が外国企業に買収されることへの警戒感であり、もっと言えば、米国政府側にとっては国家としての自尊心やプライドに関わる問題と言えよう。

今日の米国は、1990年代や21世紀初頭の米国ではない。当時の米国は、ブッシュ政権が自由や民主主義など米国流の価値観を世界に普及させるというように、超大国米国が世界を主導し、外国の紛争を解決させる上でも一役を買うという存在だった。

しかし、今日の米国にそのような姿は見えないばかりか、今回の買収問題のように、米国は中国企業による買収をことごとく阻止し、外国による自国への介入や吸収に過剰に抵抗する一種のアレルギー症状を発しているように映る。

米国の政治経済的な影響力が相対的に低下しているのは、様々なデータから明らかである。

米国自身もそれを無意識のうちに理解しており、その非介入主義、自国第一主義はそれを露呈する。

しかし、世界最強国である米国としての自尊心やプライドといったものは依然として根強く持っており、今日そこに米国は強いジレンマを感じている。

それが同盟国企業による経済合理的な買収だったとしても、冷静に対応することを難しくしている。

(この記事はオンライン版の寄稿であり、必ずしも本紙の論調と同じとは限りません)

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