トップ国際北米前方展開戦略を見直す米国 安全保障フォーラム会長 矢野義昭氏に聞く(下)【連載】トランプ米政権再始動へ 世界はどう変わる(12)

前方展開戦略を見直す米国 安全保障フォーラム会長 矢野義昭氏に聞く(下)【連載】トランプ米政権再始動へ 世界はどう変わる(12)

極超音速ミサイルに無力

ワシントンDCの米連邦議会議事堂で上院共和党との会談を終え、報道陣に対応するトランプ次期大統領=2024年1月8日(UPI)

――小島に対する中国の脅威は日本も例外ではないが。

日本が尖閣諸島を、台湾が太平島を中国に取られたら、中国と事を構える覚悟で奪取作戦をやるだろうか。圧倒的にものを言うのが核戦力、核恫喝(どうかつ)だ。

この半年で全体的にはウクライナやガザなど各地の紛争は収束していくだろう。むしろ起こるとすれば、北東アジア周辺の小島奪取などの小競り合いだ。

やの・よしあき 1950年、大阪生まれ。京都大学卒。74年、陸上自衛隊入隊。兵庫地方連絡部長、第1師団副師団長兼練馬駐屯地司令などを歴任。2006年、小平学校副校長をもって退官(陸将補)。現在、日本安全保障フォーラム会長、岐阜女子大学特別客員教授、元拓殖大学客員教授。著書に『核抑止の理論と歴史』など。

――バイデン米大統領のようにトランプ次期大統領も尖閣を日米安保条約の適用対象にするだろうか。

自主防衛をもっとやれということに間違いなくなる。ウイークジャパンからストロングジャパンとなり、しっかり防壁になれと求めてくる。NATO(北大西洋条約機構)にも増強しないなら撤退すると明言している。増強するなら支援するが、あくまで防衛は自己責任でやってくれ、我々は血を流さないということになる。今のウクライナと同じようなことだ。

――韓国で左派勢力が復権しつつある。在韓米軍撤退はあり得るか。

あり得る。カーター大統領時代からの懸案だ。北朝鮮とロシアがほぼ軍事同盟を結んでおり、北と中国とロシアというすべて核を持っている3カ国を同時に相手にすると勝てるわけがない。しかも有事は地上戦になる。早く基地を下げろという声は米国内でも大きかった。

沖縄もそうだ。12月に在沖米海兵隊のグアム移転が始まった。前方展開戦力と呼ばれる在日・在韓米軍基地があるが、これも有事になれば下がるだろう。

昨年、ロシアが最新式の極超音速の中距離弾道ミサイル「オレシニク」をウクライナで使用した。非核弾頭だが、地下深く数百㍍四方破壊され、しかも正確に目標へ向かっている。米国には迎撃する方法がない。ロシアがこの力を示したことで、米軍は前方展開できないということになる。

唐突になぜトランプ氏が「グリーンランドを買う」と言いだしたのか。オレシニクだ。前方展開を下げなければ、いつやられるか分からない恐怖心がある。迎撃など対抗手段があれば別だが、非核の中距離ミサイルで極超音速のものを米国は所有していない。

――グリーンランドを巡る報道では、温暖化による中露の北極進出が多く指摘されるが、軍事についてはあまりない。

グリーンランドからアイスランド、イギリスのGIUKラインというものがある。ワシントンから約4000㌔の距離だが、ロシアから核ミサイルを発射された際、ここに警戒監視のレーダーがある。対潜水艦のラインでもある。ここをオレシニクで攻撃されたらどうしようもない。モスクワからワシントンまでは最短のラインでもある。

レーダーを置いているグリーンランドを今になって買うと言っている。今までは借りてレーダーを設置していたが、今後は米国の前線国家にしようとしている。米国はNATOから引き揚げて、北米大陸の要塞(ようさい)化に力を入れたいのだろう。

グリーンランドはデンマークからの独立の動きもあるし、デンマークも面倒を見切れないのではないか。資源もあるので手放したくはないだろうが、将来を考えると米国と組まないと安全保障ができない。

――日本は今後、どうすべきか。

核を持って地下に潜ること。中途半端なものではなく、地下数百メートルの深さの堅固な要塞や地下都市が必要だ。日本の建築技術なら可能だろう。ウクライナが頑強な抵抗をできているのは、ソ連時代から各都市に地下要塞があるためだ。そうでないと長期間戦えない。そして、核搭載の原子力潜水艦を持つこと。そうすれば、これでいつ報復されるか分からないため、手出しできない。(聞き手=窪田伸雄、石井孝秀)

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