
――トランプ次期米大統領はウクライナ停戦まで「6カ月」と言及したが。
米国は、ロシアと中国を同時に敵にしたら勝てないと分かっている。トランプ氏は間違いなくロシアを切り崩しに掛かる。

そのときにウクライナの戦争をどう終結するかだが、長期的にやったら米国にとってもロシアにとっても利益になるという考えがあり得る。ロシアは軍事生産基盤の規模が大きく欧米とは違うので、負けはしない。米国の最新兵器、例えばハイマースなど先端技術を使った兵器は、簡単に増産も修理もできない。
実戦では安くて簡単な構造の兵器が実用的で、ロシアの兵器はそういう兵器だ。ウクライナは戦力がほとんどなくなっている。その状況で戦うということは勝てないということだ。ロシアが勝つから当然ロシアの領土が広がる。ロシア側からすると、6カ月ぐらい広げられるとしたら長くやった方がいい。
――それをトランプ氏は黙認することになるのか。
プーチン大統領は2025年中には終わらせると言っているが、ロシアは今のウクライナ東部4州のドンバス地域の3分の2ぐらいを抑えている。あと半年とするとドニエプル川まで取るかもしれない。その状況でキーウに王手をかけるとゼレンスキー政権は崩壊するかもしれない。
今のロシア軍とウクライナ軍の接触線で打ち止めとなって停戦ラインになると不安定になる。地続きで防御ラインがない。ウクライナ側にとってもロシア側にとっても一番堅固なラインはドニエプル川だ。ロシアはそこまで落とさないと地政学的に軍事停戦ラインが安定化しない。それもあると思う。ロシア軍が23年の1年間に占領した面積と、昨年11月に占拠した面積が同じだ。進撃速度がすごく上がっている。
――トランプ氏がプーチン氏に停戦で譲るとしたら、対中国でどのように持っていきたいのだろうか。
対中戦略として米国の考えは三つある。核戦争をしない、本格的地上戦はしない、経済の関係は断ち切らない、だ。ということは、オフショア・バランシングと言うが、遠巻きにして、かつてソ連にやったのと同じ封じ込めだ。経済、金融で封じ込める。前線の軍事的な直接対峙(たいじ)は前方の同盟国にやらせる。だからNATOや日本に対しGDP比3%やれ、5%やれと防衛費増額を訴えている。
自分たちは遠巻きにして圧倒的な経済力、金融力で、中国の経済力をだんだん弱らせて、経済が弱くなればいくら独裁国といってもだんだん弱くなるだろうという戦略だ。
――中国の台湾侵攻はあるだろうか。
その蓋然(がいぜん)性は高くないと思う。台湾本島侵攻は簡単ではない。台湾海峡は海流もあって気候も不安定だ。一番問題は着上陸適地が14カ所くらいしかない。
また、中国のチベット侵攻のやり方を見ると、必ずやるのは傀儡(かいらい)政権をつくるということだ。例えば、空挺部隊やホバークラフトによる低湿地帯からの上陸作戦などにより、一気に主要な政権中枢やメディアを押さえる。そして傀儡政権の樹立を宣言して中国が承認する。それを「国内問題」として、米国や日本の介入を一切遮断する。中国は100時間計画、つまり4日程度でけりをつけたいという願望を持っているようだ。
ただその通りにいくかというと、そうは思わない。一番可能性が高いのは、周辺の小さな島を取ってしまうことだ。南沙諸島の台湾が領有する太平島や、澎湖諸島の島を取る。それで台湾海峡の制海権を握る。そうすることで、習近平国家主席が、軍に対する掌握と独裁権力への権威付けやカリスマ性を確保できる。(聞き手=窪田伸雄、石井孝秀)