
――対米交渉をするには安定した政権運営が必要になるが、展望は。
日本の政権が安定しているか否かは、米国など外国との関係において影響するのは言うまでもない。石破政権が、国会で予算をきちんと成立させて、国民から支持されること。自民党内がまとまっていることはもちろん、公明との連立を安定的に維持させることも対米関係の上では重要になる。
――石破茂首相と大統領就任前のトランプ氏との会談が実現しなかった。
就任前に会うことが必ずしも良いとは言えない。安倍晋三元首相がトランプ氏の1期目就任前に会った時とは環境が違う。急いで会いに行く必要はない。
まずは、トランプ氏がどのような組閣をし、どういった政策を打ち出し何をしようとしているのか、情報収集し見極めることが必要。米国の要求に対して日本はどう協力するのか、あるいは反論するのかを決めることが大事だ。もともと日米関係は良好な同盟関係なのだから、大統領就任後に会えばよい。急がば回れ、でいい。

――日本製鉄によるUSスチール買収計画を、バイデン米大統領が差し止めした。トランプ氏はそれを支持している。同盟関係が揺らぐ懸念はないか。
石破氏は弱腰でトランプ氏に物が言えないのではないかという見方があるが、この問題について石破氏は「日本の産業界から日米間の投資に懸念の声が上がっていることを重く受け止めざるを得ない。払拭(ふっしょく)に向けた対応を米政府に強く求めたい」と明確な言葉で米政府を批判した。バイデン大統領にも直談判した。もし、買収が実現しなければ鉄鋼業界でますます中国の存在感が高まり、日米関係が損なわれる恐れがある。
――トランプ大統領になって日米同盟に変化が生じると思うか。
石破氏は、日本の現職の政治家の中で最も安全保障・防衛に知見がある。今回の石破内閣の顔触れを見ると、岩屋毅外相は国防部会長・防衛相経験者で、中谷元防衛相は3度目の防衛相就任だ。林芳正官房長官も小野寺五典政調会長も防衛相経験者。「防衛族内閣」であり、日米同盟・安保条約の重要性を熟知しているメンバーがそろっている。従って、トランプ政権でも日米の防衛協力は強化される方向になるだろう。
――トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対して国防費を国内総生産(GDP)の5%に引き上げるべきだと要求している。日本は韓国と同様に駐留米軍の経費負担の増加を求められる懸念はないか。
日本に対しても増額を要求してくる可能性があるが、予断を持って言うことは控えたい。
はっきりしていることは、米国は、速やかに世界の紛争や戦争を終わらせて、海外駐留してる米軍を撤退させていく方向だ。財政再建で最初に削られるのは防衛費だ。そうすると、日本の防衛政策も大きく変わらざるを得ない。
第2期トランプ政権では、実業家のイーロン・マスク氏とロバート・ケネディ・ジュニア氏の要職起用が決まっているが、これが何を意味しているのか。今までの米国の政治を大きく転換させようという意思がある。産業面や軍事面で大幅に方針転換されることが推測できる。
そこで、石破首相は自民党の立党の精神に立ち返る必要がある。すなわち憲法改正を実行することだ。米軍がどれだけ日本の防衛のために動いてくれるのか不透明なので、自分の国は自分で守るようにしないといけない。
(聞き手・豊田 剛)