トップ国際北米中国、米の「以商囲政」を警戒【連載】トランプ米政権再始動へ 世界はどう変わる(8)

中国、米の「以商囲政」を警戒【連載】トランプ米政権再始動へ 世界はどう変わる(8)

台湾に核威嚇で冒険主義も

習近平国家主席(左)とトランプ次期米大統領

「トランプ政権の特色は、陣容を対中強硬派で固めたことだ」

拓殖大学の澁谷司元教授はトランプ次期米政権をこう評して、「中国は米国を出し抜いて覇権樹立を考えている。米国はそれを絶対許さない」と強調する。次期国務長官のルビオ上院議員は筋金入りの反共で「中国の挑戦に打ち勝つ」とやる気満々だ。大統領側近の国家安全保障問題担当補佐官に就任するウォルツ下院議員は「ウクライナと中東の紛争を終結させ、中国共産党の脅威に集中して対抗すべきだ」との大局観を持つ。

トランプ次期米大統領は対中関税の大幅引き上げ方針を掲げており、中南海では警戒感が広がっている。中国が恐れているのは「以商囲政」という、経済の外堀を埋められることで政治という本丸を囲まれることだ。

中国共産党は昨年12月、習近平総書記(国家主席)主宰の中央政治局会議で「外からの打撃に備える」と表明した。その「打撃」を「警戒し取り除く」とする共産党政権は、米国の同盟国や友好国の取り込みに本腰を入れている。目的は双方を離間させ、あわよくば中国の磁場に引き入れようというのだ。そのため戦狼外交から微笑外交へと舵(かじ)を切ってきた。

昨年末以来、日本の産業界や政界要人を北京に招いているのも日米離間を図ることで、トランプ政権の対中強硬政策の効力を減殺しようとする意向がある。とりわけ熱心なのが中国の裏庭となる東南アジア諸国連合(ASEAN)との関係強化だ。昨年10月、中国はASEANとの自由貿易協定(ACFTA)のアップグレード(ACFTA3・0)交渉を実質的妥結にこぎ着けた。ACFTA3・0は電子決済や国境を越えたデータの流通などを盛り込んでいる。

にらんでいるのは6億5000万人を擁するASEAN諸国の巨大マーケットだ。米国から中国製品が締め出されても、代わりとなる市場を担保しておきたいのだ。また製造工場を中国から移転させることで欧米への迂回(うかい)輸出に拍車をかけたい意向もある。

ただ、中国製品の大量流入はASEAN諸国の国内産業を干上がりさせかねず、貿易摩擦の前線がASEANにも拡大する可能性が残る。

インドネシアやベトナムでは、早くも送料無料で低価格商品などを扱っている中国系電子商取引(EC)サイトTEMUを規制する動きが出てきた。

これまで何度も中国経済の破綻が懸念されたものの、何とかクリアできた最大の理由は日米欧の資本が投入されたことが大きい。とりわけウォール・ストリートの資金がバックアップした経緯がある。その点、今回ばかりは中国が厳しい局面に立たされるリスクが高くなっている。トランプ政権は米国ドルと香港ドルの交換を止めるだけで、中国に致命的な打撃を与えることができる。

コロナ後の中国は経済のデフレ化が懸念されている。さらに不動産の下落が消費を冷やす「逆資産効果」も重なり消費不振が続く。いよいよ経済の底抜けが心配されるようになると、台湾に牙をむくシナリオも存在する。

これまで経済成長の追い風が共産党政権の浮揚力になってきたが、政権維持の古典的手法である外に敵をつくって国内不満を蒸発させようという誘惑に駆られるからだ。

そもそも習近平総書記が前の共産党大会で、2期の縛りを外して3期就任に臨む際、長老たちに「台湾統一には時間がかかる」と説得した経緯がある。その時期は共産党100周年に当たる2027年だと見る中国ウオッチャーは多い。この年は習氏にとって総書記3期目の最終年だ。最高権力のポストに就いたものの実績に乏しい習氏が、起死回生の博打(ばくち)を打つ可能性は否定できない。

その際、ロシアのウクライナ侵攻同様、核による威嚇も考えられる。米国防総省は昨年12月に発表した年次報告書で、「台湾での通常兵器を使った軍事作戦で敗北し、中国共産党体制の存続が脅かされる場合、核兵器の先制使用を検討するだろう」と指摘した。同リポートでは、中国が保有する運用可能な核弾頭は、昨年半ばの時点で一昨年より100発ほど増え、推定で600発以上だと指摘した上で核弾頭数は30年までに1000発を超えると分析している。

ただ中国は核の基本方針として、先制不使用を宣言している。その宣言を、いつどの段階で撤回するのか注目される。(池永達夫)

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