トップ国際北米アルゼンチン保守政権に肩入れ 中南米左傾化に巻き返しへ 【連載】トランプ米政権再始動へ 世界はどう変わる(7)

アルゼンチン保守政権に肩入れ 中南米左傾化に巻き返しへ 【連載】トランプ米政権再始動へ 世界はどう変わる(7)

トランプ次期米大統領(右から2人目)らと 写真に納まるアルゼンチンのミレイ大統領 (同3人目)2024年11月14日、フロリダ州 パームビーチ(AFP時事)

リオグランデドスル州ローマ・カトリック大学のユング教授(国際関係学)は、ブラジルのオンラインメディア「ヒューマニスタ」のインタビューで、トランプ氏の就任後に南米の政治、経済がアルゼンチンとミレイ大統領を軸に動き始める可能性が高いと予測する。

昨年1月に就任した“南米のトランプ”ことミレイ大統領は、少数与党にもかかわらず大胆な経済改革を遂行、記録的なインフレや財政不足に苦しんできたアルゼンチン経済を立て直しつつある。

小さな政府の模索や過激なジェンダー教育の撤廃などトランプ氏と政策面での共通点も多く、現在の南米を代表する保守政治家の一人だ。過激な発言が目立つが、公共支出削減など痛みを伴う改革を国民に強いる代わりに、自らや閣僚には質素な生活を求め、国民からの支持をつかんでいる。

そのミレイ氏が、政治家としての存在感を内外に印象付けたのは、昨年11月に米フロリダ州を訪れて、外国首脳として初めて大統領選勝利後のトランプ氏と面会したことだ。トランプ氏はミレイ氏を「アルゼンチンを偉大な国に変えた」「私のお気に入りだ」などと称賛した。

トランプ氏は、ミレイ氏を20日の大統領就任式にも招待している。通常、米大統領就任式には各国駐米大使が出席するが、首脳が招かれるのは異例のことだ。

トランプ次期政権で要職を担うことになるイーロン・マスク氏もアルゼンチンへの投資を検討しており、ミレイ氏の下での「強いアルゼンチン」復活を期待していることが分かる。

半面、ブラジルの有識者やメディアの多くは、ルラ大統領が難しい舵(かじ)取りを要求されるだろうとみる。新興国グループ「BRICS」の議長国に就任したブラジルが、中国に対して厳しい姿勢で臨むと予想されるトランプ氏との板挟みになるだけでなく、トランプ氏の関税政策によって通貨安とインフレのダブルパンチがブラジルを襲うことを懸念する。

ブラジルは、11月に第30回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP30)を開催するが、環境問題対策を最重要政策の一つとするルラ氏が、自国優先を掲げるトランプ氏への対応に苦慮することが予想される。アマゾン熱帯雨林の保護などに米国の支援は欠かせないからだ。

また、ユング教授は、トランプ政権の発足が、ブラジルの保守派の攻勢につながるとみる。2年後の大統領選でボルソナロ前大統領、もしくはボルソナロ氏に近い政治家がトランプ政権の後押しを受けて支持を拡大し、保守政権復活への弾みとなる可能性は否定できない。

一方、長年「米国の裏庭」と言われてきた中南米だが、近年は中国が強い影響力を行使している。

南米で唯一、台湾と国交があるパラグアイに対する中国による切り崩しは年々激しさを増している。ベネズエラの反米左派マドゥロ大統領も中国とロシアの支援を受けており、エクアドルでは中国の「一帯一路」構想の一端を担うべく中国資本の投資による大規模港湾施設が竣工したばかりだ。

トランプ氏は昨年12月、パナマ運河の運営に関して「中国が管理に関与している」「通航料が高過ぎる」などとパナマ政府を厳しく批判、管理権の返還を求めた。パナマ運河の通航料値下げや返還交渉に向けて経済的威圧などの強硬手段もいとわないという姿勢だ。

トランプ氏が、極端とも思われる発言を行う背景には、別の思惑がある場合が多いとされる。パナマの場合は、対中国の狙いが透けて見えるが、中南米地域における米国の復権に向けてタフなトランプ外交が展開されそうだ。(サンパウロ綾村 悟)

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