トップ国際北米米・イラン 交渉進展の可能性も 中東専門家 エルダッド・J・パルド氏に聞く 【連載】トランプ米政権再始動へ 世界はどう変わる(6)

米・イラン 交渉進展の可能性も 中東専門家 エルダッド・J・パルド氏に聞く 【連載】トランプ米政権再始動へ 世界はどう変わる(6)

中東の緊張緩和へ

エルダッド・J・パルド 英ロンドンとテルアビブに拠点を置くNPO「学校教育平和・文化的寛容監視機関(IMPACT―SE)」の研究ディレクターで、中東専門家。著書に「革命の予測 イラン映画とイスラム革命」(2010年)。

――イランはトランプ次期米政権をどう見ているか。

イランはトランプ氏を恐れている。ハメネイ師の独裁政治の下、暗殺も試みてきた。トランプ氏は1期目、イラン核合意から一方的に離脱してイラン制裁を復活させた。石油、天然ガス共に世界第2位の埋蔵量を誇る資源大国であるイランは、厳しい制裁にさらされ、深刻なエネルギー危機に直面。電力供給を頻繁に停止しなければならない状況に見舞われている。イランはさらなるダメージを避けるために、次期米政権との間で新たな合意に向けた交渉を進める可能性がある。以前のイラン核合意は十分ではなかったため、新たな合意には、核開発、長・中距離ミサイル、代理勢力の問題解決策が含まれる必要がある。

イランの最高指導者ハメネイ師(右)とペゼシュキアン大統領 =7月12日、テヘラン(AFP時事)

――イスラエルによるイラン核施設への攻撃が懸念されているが。

現時点で攻撃の時期を予測することは極めて難しい。メディアではさまざまな専門家が、トランプ氏が大統領に就任する前にイスラエルがイランの核施設を攻撃する可能性が高いとコメントしている。イランは昨年4月と9月の2回、イスラエルを数百発のミサイルやドローンで直接攻撃した。イスラエルは報復攻撃によってイランの防空システムを無力化することに成功した。現在、イスラエルの空軍機が行き来できる空域が確保されている。また、イスラエル軍は長距離ミサイルの発射訓練を十分に行い、イランやイエメンを攻撃する準備ができている。米国の防衛関連企業との協力態勢も整った。いずれにしても米英の許可が必要だ。

イランの核関連施設

――イランはトランプ政権と交渉になった場合、応じるか。

2020年のイランの隣国アゼルバイジャンとアルメニアの紛争で、イスラエルはアゼルバイジャンを支援した。イランはアルメニアを支援して敗北した。トランプ氏は、イラン包囲網を構築するため、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)などアラブ諸国との国交正常化(「アブラハム合意」)を仲介した。サウジアラビアとイスラエルの正常化も目前だった。

イランはサウジとイスラエルの正常化を阻止する必要があった。なぜなら、サウジにイスラム教の聖地と石油資源があるからだ。イランは外交的、軍事的手段でイスラエルを弱体化、孤立化させようとしたが失敗した。

トランプ氏は、アブラハム合意を拡大する準備があるという。イラン外相は、イスラエルを非難しながらも、「われわれは皆アブラハムの子孫である」と言っている。つまり、アブラハム合意に加入したい意思もあるということだ。

――中東情勢は、今後どうなるのか。

イランの構想は、代理勢力を使ってイスラエルを全方面から囲み殲滅(せんめつ)することだった。イラン国内では、国の政策に関して真剣な討論、協議が行われている。過去40年間のイランの政策が大失敗に終わったということだ。

イランはシリアに320億~500億㌦(5兆460億~7兆8800億円)を投資したが、それはただ戦争の中に消えていった。シリアは、イランがレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラに武器など軍事援助を供与するための重要な回廊だったが、アサド政権が崩壊し、現在そのルートはほとんど機能していない。ヒズボラは上級指導部が排除され弱体化し、イスラム組織ハマスは壊滅状態だ。

イスラエルは、ハマスとの戦争でイランの思惑とは逆に、その強さを証明した。中東において最も強力な国家としての位置を再び確立しつつある。

中東は家族、氏族で成り立っている。トランプ氏は、個人の平等というより、家族、氏族単位で世界を見ている。断言はできないが、トランプ氏が米大統領に就任した後、中東情勢の緊張は緩和に向かうだろう。

(聞き手・エルサレム森田貴裕)

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