2025年の欧州は、ウクライナ紛争および中東の戦争危機への対処が最大の課題だ。特にロシアのプーチン大統領がちらつかせる核使用の可能性は、本格的な第3次世界大戦への突入を意味し、地続きの隣国ウクライナの危機は欧州の安全保障に直結している。
昨年9月、プーチン氏は核兵器保有国の支援を受ける核を持たない国から攻撃された場合、それは「共同の攻撃」と受け止めると表明し、核を持たない欧州諸国からの攻撃にも核使用の可能性があるとする新ルールを明らかにした。昨年5月に西側諸国が提供する武器でロシア領内攻撃を容認すべきだとした北大西洋条約機構(NATO)に対するロシアの答えだ。
現時点で欧州は、ロシアの核攻撃の脅威にさらされているという現状認識を共有している。すでに欧州連合(EU)加盟国は今年を含め数年間で軍事予算を過去にない規模に増額することで認識を共有しており、ロシアへの危機意識は高まる一方だ。
フランスはウクライナへの技術支援で専門家を現地に派遣し、ウクライナ兵への訓練を続けてきたことを昨年12月に明らかにした。プーチン氏から見ればウクライナ紛争に参戦しているとしか見えない軍事支援は増える一方だ。
トランプ前大統領は第1次政権で、NATOへの分担金増額をEU加盟国に迫った。昨年の大統領選でも「分担金を払わず、本腰を入れて自国を守らない加盟国を米国は守らない」と圧力をかけた。結果、トランプ氏の発言は、加盟国の国防費増額を後押ししている。
特にかねて米国に左右されない独自の欧州防衛軍を組織することを主張し続けてきたフランスは、独自防衛の機運を強く感じ取っているが、かつての大国だったソ連を背景に持つロシアの軍事力はウクライナ紛争でも発揮され、欧州の防衛力を上回るというプーチン氏の認識は変わっていない。
ウクライナ軍は今月2日、越境攻撃により一部を掌握しているロシア西部クルスク州マリノにあるロシア軍司令部に高精度の攻撃を実施した。これを受けてロシア軍は、防空部隊が同地域でウクライナのミサイル4発を迎撃したと発表した。
トランプ氏がウクライナ紛争から手を引けば、現時点でロシアに対抗する防衛力のない欧州は非常に危険な状況に陥る。さらにEU牽引(けんいん)役の独仏は議会に過半数を占める政党が存在しないハングパーラメント(宙づり状態)にあり、予算を「決められない」。そのため国防費増強も決められないし、EUでの求心力も低下している。
EUの大国は予想の困難なトランプ政権への対応策で求められる迅速で柔軟な対応を取れる状況にはない。その意味で内政の政治的停滞は、ロシアに弱点をさらすことになる。さらにハンガリーなど一部の中欧加盟国は、いまだにロシアの天然ガスにエネルギー源を依存し、プーチン政権寄りの姿勢を見せている。また、台頭する右派ポピュリズム勢力の中にもロシア寄りが存在する。
対ロシアで何より結束が求められるEUにとって、内部対立を深めることは命取りになりかねない。米国が同盟国として当てにならなければ、独自に安全保障体制を構築するしかない。EUの中にはその状況をポジティブに受け止める動きもある。
一方、欧州は全体としてトランプ氏に対してネガティブな見方が強い。理由は欧州はリベラル勢力が強いからだ。英BBCは、第1次トランプ政権だけでなく、2期目に対してもネガティブ報道を繰り返している。ドイツもフランスも同様の論調が主流となっている。今後、この論調がどう変わるのか注目すべきだろう。(パリ安倍雅信)