――韓国にも「トランプ恐怖症」があると聞く。
米国社会に「世界の警察」の役割をいつまで果たさなければならないのかという考え方が広がっているところにトランプ氏が登場し、「米国に守ってもらいたいなら保護費用を出せ」と言い始めた。カネを出す国は保護するが、出さない国は保護しないという趣旨で、韓国には防衛費分担金の引き上げ要求が予想され、在韓米軍撤収カードで揺さぶってくるとの見方すらある。
――米大統領就任後にトランプ氏が分担金引き上げを要求できるのは2026年分からか。
行政命令で来年分(26年分)からすぐできる。24年10月、韓米の国防相は定例安保協議(SCM)で30年までの5年分の分担金を決定したが、条約ではなく単なる交渉なので覆される恐れはある。韓国は24年の分担金が約1兆4000億ウォン(約1500億円)で国防費に占める割合が2・8%だが、これを3~3・5%まで引き上げろと言っている。
――無理な要求をされないよう説得する方法は。
ある程度の増額は受け入れるにしても、その反対給付も韓国は提示すべきだ。使用済み核燃料棒の再処理技術確保に向けた韓米原子力協定の改正やトランプ氏が以前要求してきた、古くなった米艦艇の修理費を韓国造船業が負担することなどが考えられる。
――トランプ氏再登場で米朝首脳会談の行方に関心が集まっている。
トランプ氏はノーベル平和賞が欲しくて、まるで熱病にうなされているかのようだ。安倍晋三元首相にも受賞を手助けしてほしいと頼んだという。日本はノーベル財団とコネクションがあると思っている。だから米朝首脳会談というパフォーマンスをして受賞しようとするだろう。
――韓国にとっては北朝鮮の非核化が依然として最大の懸案だが。
CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)は難しいだろう。トランプ氏は部分的非核化に応じざるを得ないのではないか。例えば、2018年のベトナム・ハノイでの首脳会談のように寧辺核施設だけ放棄し、制裁を解除してもらうというもの。しかし寧辺は北朝鮮全体の核開発能力の半分にも満たず、カンソンのウラン濃縮施設などは残る。
――核が増え続ける。
年間5個の核を製造するとも言われる。北朝鮮の核問題をこれ以上外交的手段で解決するのは困難という現実を直視し、そのための交渉は止(や)める時が来たのではないか。できもしないのに30年間もこだわってきた。このまま金正恩総書記の核脅威路線が10年続いた場合、韓国で核武装論が現実のものになるかもしれない。
――正恩氏としてはロシアと緊密な関係を築き、外貨をはじめ食糧やエネルギー、軍事技術などを得ているとみられる。トランプ氏との会談に固執する必要があるだろうか。
ロシアと包括的同盟関係を結び、制裁効果が低下した。局面が大きく変わったということだ。金正恩氏としてはトランプ氏がノーベル賞をもらいたいという弱点を利用し、米国から得られるものは得ようと考えて米朝首脳会談に応じることもできるし、やらないならそれでも構わないと考えているだろう。トランプ氏と交渉して米朝の外交関係を正常化させ、平壌に米国大使館を開設することなど望むはずはない。
――尹錫悦大統領が国会で弾劾訴追され、拘束令状まで出された状況で、韓国政府はトランプ氏への対応ができるだろうか。
トランプ氏への対策は今回の弾劾問題で遅れざるを得ない。難しい舵(かじ)取りが迫られている。
(聞き手・ソウル上田勇実)