トップ国際北米革新技術で対中優位を確保 左派思想排除し米軍再建へ 米フーバー研究所上級研究員ビクター・デービス・ハンソン氏に聞く(下) 【連載】トランプ米政権再始動へ 世界はどう変わる(2)

革新技術で対中優位を確保 左派思想排除し米軍再建へ 米フーバー研究所上級研究員ビクター・デービス・ハンソン氏に聞く(下) 【連載】トランプ米政権再始動へ 世界はどう変わる(2)

聞 く ト ラ ン プ 次 期 米 大 統 領 昨 年 12 月 22 日 、 ア リ ゾ ナ 州 フ ェ ニ ッ ク ス ( A F P)

――トランプ次期米大統領はウクライナ戦争をすぐに終わらせると約束している。その具体策は何か。

それは、現在の政策に反対する共和党と民主党の外交政策コミュニティーの考えに基づくものだ。

ロシアはオバマ政権下でウクライナのクリミアと東部のドンバスの一部を違法に占領した。それ以降、オバマ、トランプ両政権はこれらの地域を軍事力で取り戻すことはできないと述べており、バイデン政権も2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻まで同様の立場だった。

こうした現実を踏まえ、トランプ氏はプーチン露大統領に「あなたは愚かなウクライナ侵攻で多くの死傷者を出したことについてロシア国民に説明する必要があるだろう。だから、占領した土地を正式の領土にしたと主張することを容認する」と語るだろう。

次に、トランプ氏は、ウクライナを北大西洋条約機構(NATO)に加盟させない代わりに、非武装地帯を設け、22年2月のウクライナ侵攻開始前の状態にロシア軍を戻すことを求める。

プーチン氏に対し、これを受け入れれば、欧州への石油とガスの供給を再開し、商取引を正常化するための協議が可能になると伝える。一方でNATOがウクライナの軍事力を徹底的に強化させることを受け入れさせる。

トランプ氏は、ロシアを中国やイラン、北朝鮮と同じ陣営に押しやるのは理にかなっていないと考え、戦略的にロシアをそこから引き離したい考えだ。

プーチン氏がこの提案を受け入れるかは不明だが、戦死者の増加や経済への打撃が深刻であることを考えると、面目を保ちつつ撤退する方法であると見れば、受け入れる可能性がある。

――トランプ次期政権の対中政策はどうなるか。

トランプ氏は、中国が帝国主義的な「一帯一路」政策で過剰に手を広げ過ぎて、コストが大きくなり過ぎていると考えている。また中国経済も停滞し始めていると認識している。

こうした中、トランプ氏は米国経済を拡大させ、軍事力を従来の大規模な空母や高価な飛行機ではなく、ドローン技術などの革新的な方法で強化することで、中国を抑止できると考えている。

貿易問題については、中国は過去40年間、一方的に有利な条件によって得た資金を使い軍事力を強化してきたが、トランプ氏はこれを容認しない考えだ。中国と対等で公平な関係を求め、そうしなければ関税をかける。どう対応するかは「あなたたち次第だ」という立場だ。

また国防総省内のDEI(多様性、公平性、包摂性)やウォーク(差別などに敏感なこと)など左派イデオロギーを一掃し、新兵募集を回復し、米軍の再建を進めるだろう。国防長官に変革者である退役軍人のピート・ヘグセス氏を起用すると決めたのは、彼が著書の中で、米軍内の左派イデオロギーに最も包括的な批判を行ったからだ。

――トランプ氏の任期中に、中国が台湾侵攻する可能性は。

ないと考える。中国が、トランプ氏は非常に予測不可能だと考えているからだ。

また中国の軍事力はその周辺地域においては米軍と同等だが、まだ世界規模の覇権を握っていない。トランプ氏は、米軍は今後数年間は中国よりも優位であり、迅速に軍事力を増強し、適切な武器を用意すれば、中国に対して台湾侵攻の代償の大きさを認識させることができると考えている。その代償は、米国が台湾に武器を提供しつつ、ミサイルや空爆で距離を置いて戦うことで課すことができるものだ。

またトランプ氏は、日本、台湾、韓国、オーストラリア、フィリピンの対中抑止力を高め、協力を求める方針だ。これらの国々が協力をためらう理由の一つは、米国の政権が代わると方針が変わる可能性があるからだ。

これに対しトランプ新政権は同盟国に「米国の軍事的優位性を持続的に維持するための仕組みをつくる。だから、関係を強化しつつも、後にあなたを孤立させることはない」と約束するだろう。トランプ氏は海外からの米軍撤退について言及することもあるが、実際には同盟国を守りたいと考えている。

欧州や日本の人々は、トランプ政権について懸念している。しかし、もし私が日本や欧州にいて、中国やロシアから深刻な脅威を受けているなら、バイデン政権よりもはるかにトランプ政権を望むだろう。

イスラエル支援で中東安定化

――バイデン政権が発足して以降、中東情勢は混迷した。トランプ氏は中東に安定を取り戻すことができるか。

バイデン政権は、オバマ元政権の中東政策を復活させ、イランとその代理勢力を強化した。例えば、バイデン氏は就任直後にイエメンの武装組織フーシ派をテロリスト指定から解除した。イスラム組織ハマスとパレスチナ自治政府は、国連救済機関から再び7億㌦を受け取ることになり、イランに対しては石油収入の凍結解除を行った。

それは中東を不安定化させた危険な政策だった。しかし、バイデン政権の考えは、これによりイランを中心とした勢力と、イスラエルのほかサウジアラビア、クウェートなどアラブ諸国との、力の均衡をもたらすことができるというものだった。

トランプ氏はこれを「狂気の沙汰だ」と批判した。イスラエルは中東で唯一の民主国家であり、西側諸国だ。一方で、イランはテロを引き起こして混乱を招き、核兵器を手に入れようとしている上、中国、ロシア、北朝鮮からの支援を受けているからだ。

イスラエルはすでにトランプ氏が当選することを見越して賭けをしていた。バイデン政権に対して「弾薬支援を停止されたとしても、ハマスを壊滅させる」と述べ、攻撃を継続した。レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラやイランについてもバイデン政権の方針に反し、報復してきた。

イスラエルはハマスのテロリストを無力化し、ヒズボラもほぼ無力化した。それはトランプ氏が大統領になって、その方針を追認するとの前提で行われたものだ。

トランプ氏は、こうしたイスラエルを支持する政策が中東に安定をもたらすと考えている。米国はこれらの地域に直接介入せず、イランとその代理勢力がイスラエルを攻撃するたびに反撃することを支持する。

米国やエジプト、ヨルダンなどの穏健なアラブ諸国は、イランやレバノン、ガザなどの住民がテロリスト政権の現状に対して変革を求めるように再建を支援する用意があるが、それまでは介入しないという立場を取る。これはより現実的な政策であり、テロリスト政権を強化するよりも成功する可能性が高い。

(聞き手・ワシントン山崎洋介)

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