トップ国際北米トランプ氏勝利は「正気への回帰」矛盾露呈した左派思想 米フーバー研究所上級研究員ビクター・デービス・ハンソン氏に聞く(上) 【連載】トランプ米政権再始動へ 世界はどう変わる

トランプ氏勝利は「正気への回帰」矛盾露呈した左派思想 米フーバー研究所上級研究員ビクター・デービス・ハンソン氏に聞く(上) 【連載】トランプ米政権再始動へ 世界はどう変わる

激動の世界を予感させる2025年を迎えた。米国で1月20日に前大統領のトランプ氏が再び大統領に就任することをはじめ、米国や国際社会はどう変わるのか――。新年を展望する。
 Victor Davis Hanson 1953年、米カリフォルニア州で生まれる。80年にスタンフォード大学で古典学の博士号を取得。現在、スタンフォード大学フーバー研究所上級研究員、カリフォルニア州立大学フレズノ校名誉教授、ヒルズデール大学特別研究員を務めるほか、政治評論家としても活躍している。

――あなたは昨年11月の大統領選におけるトランプ氏の勝利について「歴史的な反革命」だと表現した。それはどういう意味か。

2020年の大統領選で、バイデン氏は、知的機能が万全でないとみられていた。しかし、中道派とされるバイデン氏は、左傾化の進む民主党内では唯一、本選挙で勝てる候補だった。

そこで、急進左派は自らの政策を実行するためにバイデン氏支持に回った。その後の4年間で、米国では「文化革命」が起きた。つまり彼らはバイデン氏を仮面として利用し、前例のない急進的な政策を推進したのだ。

各地で左派検察官が選出され、犯罪者が「真の被害者」として擁護された。また左派は国境の存在を否定し、その結果、大量の不法移民が流入した。

彼らは、フランス革命期のジャコバン派や毛沢東の文化大革命のように、米国の歴史や価値観を根本から見直そうとした。例えば、建国の年を、独立宣言が署名された1776年から、最初のアフリカ人奴隷が連れて来られた1619年に変更しようとした。また、彼らは、自らの基準にそぐわない歴史上の人物を称(たた)える記念碑をすべて取り壊し、通りや建物の名称も変更した。

生物学的な男性を実際には女性であると主張し、女子スポーツや女子更衣室にアクセスする権利があるとした。また、人種や性別に基づいて雇用や入学を決める制度も推進された。

ウィスコンシン州ミルウォーキーのファイザーブ・フォーラムで開催された2024年共和党全国大会を後にするドナルド・トランプ元大統領=2024年7月15日(UPI)

これらは枚挙にいとまがない。ほぼすべての論争の的となっている問題について、左派は自らの立場を主流化し、異常なことを「正常」にした。

これらは単なる政治運動に留(とど)まらず、米社会を根本から変革しようとする試みであった。大統領選の結果は、民主党の政策への拒絶だけでなく、こうした文化革命以前に戻りたいという「反革命」の一環だ。それは「正気への回帰」ということでもある。

――「ウォーク(差別などに敏感なこと)」とも呼ばれるこうした左派政策の推進に対して世論の反発が広がったのはなぜか。

彼らがウォーク路線を推進する中で、多くの矛盾や不条理が露呈され、それが自滅を招いた。例えば、性別選択の自由を主張することと、男性生殖器を持つ人が女子更衣室に入ることは重罪とすることの矛盾だ。保護者たちは「ちょっと待ってくれ。もし彼が男性だと言ったら刑務所に行くが、女性だと言ったら行かなくてよいのか?」と疑問を抱いた。

また、人種に基づいて特権を与える際に、混血の人々がどうなるのかという問題が指摘された。例えば、4分の1だけ黒人の場合、その人は特権を持っているのか、ということだ。

このウォーク革命は米国の安全保障にも影響を与えており、昨年は4万5千人の兵士が欠員となった。その主な要因は下層階級の白人男性が減少したことである。彼らはイラクやアフガニスタンでの戦闘で高い死亡率を示しており、国のために命を懸けることを厭(いと)わない重要な人材だ。

しかし国防総省が彼らに対して人種差別主義者でないことを証明するよう求めた結果、反発が生じ、軍隊に大きな打撃を与えた。彼らは「父は湾岸戦争で戦い、私はイラクで戦った。だが、息子はもう戦わない」と言った。こうした軍隊の深刻な現状に人々は驚いた。

――トランプ氏の勝利はこうした「ウォーク革命」の終焉(しゅうえん)を意味するのか。

終焉かどうかは不明だが、その一掃の取り組みは勢いを増している。大学は、人種ベースの入学を見直し、大学入学適性試験(SAT)を大急ぎで再導入している。企業側も、実力主義の復活を求めている。

出版業界やハリウッドも、「DEI(多様性、公平性、包摂性)」 やウォーク関連の作品で損失を出し、これらを排除し始めた。

左派概念壊し 労働者連帯させる

――「ウォーク」の背景にあるものは何か。

ウォーク文化はマルクス主義的な二元論に基づいている。その階級闘争の概念が、多人種国家の米国で人種的対立に置き換えられたものだ。どんなに裕福で地位があっても「非白人」であれば皆「被抑圧者」であり、白人から差別を受けてきた「犠牲者」とされた。

しかし、トランプ氏はこうした概念を破壊し、人種を超えた労働者階級の連帯を築いた。メキシコ系米国人のトラック運転手、黒人の電気技師、アジア系の建設労働者、白人のタクシー運転手は皆、沿岸部のエリート層ではなく、トランプ氏による政治運動と共通性を持っている。

見た目は違っても、彼らは皆、食料、ガス、住宅を買うために同じように苦労している庶民だ。トランプ氏が、こうした政治運動を作り出したことは、米国の歴史上、非常に画期的なことだった。

――トランプ氏は就任後、左派政策をどう是正するか。

トランプ氏ができることは、連邦資金の条件を大統領令で設定することだ。例えば、米国には州や市、郡など600の「聖域都市」があり、連邦移民法を執行して犯罪者や不法滞在者を強制送還しようとしても、それを拒否するとしている。

これに対し、トランプ氏は、それは連邦法を無効にした旧南部連合と同じ反乱行為だとし、もし不法滞在者を保護したいなら、高速道路や健康・教育への連邦補助金を見直すと言っている。これらの州はトランプ氏に対して訴訟を起こすか、静かに国境警備隊と協力する意向を示すかどちらかになるだろう。

――トランプ氏勝利を受けて、左派はどう反応しているか。

ウォークを推進してきた左派は「国民はわれわれに反対しており、トランプ氏がすべてを覆そうとしている。われわれは、少なくとも変わろうとしているふりをしなければならない」と考えている。

2016年にトランプ氏が当選した時、それに憤った民主党は、国家安全保障問題担当大統領補佐官に指名されていたマイケル・フリン氏がロシアの駐米大使と会談した際、ローガン法を適用しようとした。これは民間人の外交交渉を禁じているが、実際にはほとんど適用されたことがない法律だ。

今回、トランプ氏は就任2カ月以上前から、事実上の大統領として振る舞っているが、ローガン法に違反しているとは言われない。外国の指導者たちはバイデン大統領ではなく、トランプ氏と話すために順番待ちをしている。

これまで民主党やリベラル派は、トランプ氏に対して2度の弾劾や刑事・民事訴訟をはじめ、あらゆる法外な手段を尽くしてきた。しかし今は、こうした抵抗は鳴りを潜めている。彼らは「もはやバイデン氏の健康や開かれた国境、インフレ、中東やウクライナの情勢について嘘(うそ)をつくことはできない。今はトランプ氏にチャンスを与え、態勢を整え直そう」と考えているようだ。

(聞き手・ワシントン山崎洋介)

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