トップ国際北米【連載】脅かされる信教の自由㊼ 第7部 世界の中の日本の信教  政治と宗教、結び付くアメリカ

【連載】脅かされる信教の自由㊼ 第7部 世界の中の日本の信教  政治と宗教、結び付くアメリカ

トランプ氏圧勝の背景に

2020年1月、米マイアミのキリスト教会で開かれた集会でポーラ・ホワイト牧師(左)と共に祈りを捧げるトランプ大統領(当時) = UPI

米大統領選の投票日を目前に控えた10月下旬。激戦州の南部ジョージア州アトランタ郊外で開かれた集会に、共和党候補のドナルド・トランプ前大統領を支持するキリスト教牧師が1000人以上集まった。

トランプ氏は同氏の「宗教顧問」であるポーラ・ホワイト牧師との対談で、会場に詰め掛けた牧師たちを「最も重要な人々」と呼び、こう明言した。

「大統領執務室、つまり私と直結することになる」

トランプ氏は政権1期目に宗教指導者との窓口となる「信仰オフィス」をホワイトハウスに設置したが、これを復活させて大統領に直接アクセスできるようにすると約束したのである。

集会の最後には、10人以上の牧師が壇上でトランプ氏を取り囲み、祈りを捧(ささ)げた。この中で、テキサス州のメガチャーチ(巨大教会)を率いるジャック・グラハム牧師はこう祈った。

「トランプ氏を神の言葉と知恵の戦士として育ててくださったことに感謝します。あなたが彼を再び私たちの大統領にお育てになる時、彼に力と知恵と喜びを与えてくださるよう祈ります」

日本でもし政治家と宗教指導者の間でこのようなやりとりがあったらどうなるか。間違いなく「ズブズブ」の関係だと猛烈なバッシングを浴びるだろう。米政治にキリスト教保守派が大きな影響を及ぼしていることに左派勢力が反発していることは事実だが、政治家が宗教系組織と緊密な関係を持つこと自体を不適切だとする論調はほぼ皆無だ。

トランプ氏がキリスト教と「ズブズブ」である事例は数え切れない。例えば、トランプ氏は「神が創造した性別は男女の二つだ」と、トランスジェンダー思想を宗教的視点から全面否定。左翼勢力のバッシングを恐れず過激なLGBT政策に真っ向から立ち向かう姿勢は、キリスト教徒の支持拡大につながった。

また、トランプ氏が副大統領候補に選んだJD・バンス上院議員は敬虔(けいけん)なカトリック教徒。10月の選挙集会で参加者が「イエスは王だ」と叫ぶと、バンス氏は「その通り。イエスは王だ」と応じ、会場から熱烈な拍手喝采を浴びた。これは、数日前に民主党候補のカマラ・ハリス副大統領が「イエスは主だ」と叫んだキリスト教徒の学生に対し、「あなたは間違った集会にいる」と述べたことを批判する意図もあった。

NBCニュースの大統領選出口調査によると、全体の23%を占めた保守的な白人の福音派キリスト教徒の実に82%がトランプ氏に投票。カトリック教徒も63%が同氏に投じた。キリスト教徒の支持を固めたことがトランプ氏圧勝の大きな要因となったことは間違いない。

「宗教票」に頼ったのは、ハリス氏も同じだ。同氏は黒人教会を積極的に訪問したが、敬虔なキリスト教徒が多い黒人社会の中で、教会は歴史的に民主党の主要な選挙基盤になってきたからだ。

ハリス氏は10月下旬、激戦州の東部ペンシルベニア州フィラデルフィアにある黒人教会の礼拝に出席。幼少期に教会に通った経験を紹介しながら、「そこで聖書の教えと信仰の力を完全に理解した」と強調した。無論、このようなハリス氏の言動を「ズブズブ」と揶揄(やゆ)する声は起きなかった。

これに対し日本では、安倍晋三元首相銃撃事件をきっかけに、世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)と自民党の関係が糾弾され、同党は関係断絶を宣言した。まるで宗教は政治に一切関与してはならないかのような風潮だ。これは米国の常識からあまりにもかけ離れている。

(信教の自由取材班)

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