トップ国際北米外れた米大統領選の世論調査 ラスムセン・リポート調査ディレクター マーク・ミッチェル氏(下)【インタビューfocus】

外れた米大統領選の世論調査 ラスムセン・リポート調査ディレクター マーク・ミッチェル氏(下)【インタビューfocus】

米大統領候補のテレビ討論会に臨んだハリス副大統領(右)とトランプ前大統領=9月10日、ペンシルベ ア州フィラデルフィア(AFP時事)
米大統領候補のテレビ討論会に臨んだハリス副大統領(右)とトランプ前大統領=9月10日、ペンシルベ ア州フィラデルフィア(AFP時事)

過大評価されたハリス氏支持

――米大統領選挙でバイデン大統領撤退後、民主党候補者になったハリス副大統領の支持率の平均値が上がった。

ハリス氏の支持率の平均値を押し上げていたのは、幾つかの特定の世論調査会社だ。例えばロイター通信による世論調査は、当初トランプ氏が約1ポイントリードしていたが、その後ハリス氏が6ポイントリードするまでになった。

しかし、こうした世論調査の詳細項目を見てみると、例えば候補者の好感度ではハリス氏は49%、トランプ氏は36%で、非好感度ではハリス氏が48%、トランプ氏は60%といったような結果が出ている。

これは全くのナンセンスだ。なぜなら、トランプ前大統領は2020年に共和党の大統領候補として史上最高の票を獲得したからだ。同氏の非好感度が好感度より24ポイントも多いはずはない。

これは、その調査の回答者全体がトランプ氏を嫌う人々に偏っており、米国の有権者全体を反映していないことを示している。彼らは何度も同じ間違いを繰り返しているので、それを分かっているはずだ。

またメディアが世論調査の結果を不正確に報道し、人々に誤った印象を与えた例もある。フェアリー・ディキンソン大学は8月、誘導質問が調査に与える効果を確認するための実験的な調査を行った。最初に質問した時はハリス氏が1ポイントリードしている状況だったが、その後、回答者に人種や性別に関する質問を投げ掛けた後に再度質問することで、ハリス氏のリードが7ポイントに拡大するという結果になった。しかし、ザ・ヒル紙はこの調査結果について、「ハリス氏がトランプ氏を7ポイントリード」と趣旨を取り違えて報じた。

リベラル・保守を問わず、そういった例はたくさんある。なぜなら、これまでもあったように、大手メディアと政府の利益が一致すれば、現状維持のためあらゆる手段を講じるからだ。

――トランプ支持者は世論調査に回答することを拒否しがちなため、調査に偏りが生じるという指摘もある。

われわれにはその問題はない。むしろ、トランプ支持者の回答が多過ぎるくらいだ。

問題は、ほとんどの世論調査会社が(サンプルの偏りを調整するため)政党ごとに重み付けを行っていることだ。しかし、政治家の強い個性が非常に重要な役割を果たす時代において、政党の重要性は低くなる。

もし私が、民主党支持者が2%多いと仮定して調査結果を調整したとしても、その民主党支持者の中にトランプ支持者が多く含まれているため、結局トランプ氏の支持率が高くなってしまう。

その代わり、もしサンプルが偏っていると思われる場合、2020年に誰に投票したか尋ねることによって調整することが可能だ。これにより、それ以降に支持を乗り換えた人々に焦点を当てることができ、偏りを排除できるのだ。

多くの世論調査会社は政党ごとに重み付けを行っているが、問題は提携するメディアが持つブランドイメージによって、共和党員のうちネオコンや反トランプの人たちの回答が増えてしまうことだ。

例えば、(保守的ともみられる)ラスムセン・リポートという名前は、特定のリベラル派を遠ざけるものであることをわれわれは認識している。一方で、ニューヨーク・タイムズ紙という名前は(保守的な)ケンタッキー州の農民を遠ざけると考えられる。その結果、共和党支持者でも反トランプの人たちが多く回答することになるのだ。

――9月のテレビ討論会は、ハリス氏が「勝利」したというのが大方の見方だったが、選挙戦に影響は与えなかったのか。

今回は、典型的な選挙ではなかった。われわれの調査では、ハリス氏は候補者になる前の期間、支持率が長い期間、43%程度に低迷していた。しかし、候補者になった後、48%程度に上がった。

つまりハリス氏は、初めから強い支持を受けて候補者になったわけではないということだ。また、バイデン政権が多くの失望や不満をもたらしたことを考えると、48%という支持は、高過ぎるように思える。

一方で、接戦州で連邦政府を信頼すると回答したのは30%にすぎなかった。そしてもう一つの問題は、メディアが非常に嫌われていることで60%の有権者がメディアを「国民の敵」と見なしていると回答した。

私の見方では、今回の選挙で有権者が投じたのはエスタブリッシュメント(支配層)や政府に対する反対票であり、そのような状況でハリス氏が候補者としてできることには限界があったということだ。

皆が政府を嫌っている中で、ハリス氏は政府側の候補者だった。討論会について聞かれれば、多くの人がハリス氏が勝ったと答えた。しかし、支持率自体には全く変動がなかった。

7月にトランプ氏が銃撃された時も全く変動がなかった。だからこそ、他の世論調査でトランプ氏が2ポイントリードから、ハリス氏が6ポイントリードに変わったのを見た時、私にとってはそれが偽りのものであることは非常に明白だった。

――トランプ氏が4年前と比べマイノリティー層からの支持を拡大できた理由は。

われわれの調査では、黒人票が大幅にトランプ氏に動いていた。 物価高に対する不満の影響が大きいのは明らかだが、それに加え、トランプ氏に対する政治的迫害も大きな要因だとみている。

それを直接的に示す調査結果はないものの、ハリス氏支持の方が多い黒人に対して、トランプ氏が有罪判決を受けることの是非を尋ねると、反対の方が多いか、せいぜい五分五分だった。

また、ヒスパニック系有権者は不法移民に対して非常に強く反対していたが、民主党はそれを完全に無視した。だから、大量のヒスパニック票を失ったのだ。

また、われわれが最近行った調査で非常に興味深い質問は、英語を政府の公用語として宣言することを支持するか、というものだった。ヒスパニック系有権者が多く反対すると考えられがちだが、実際にはそれはわずか17%で、全体とほぼ同じ割合だった。

これは、現在の民主党を支配しているリベラルな教義において米国に広がっているとされる「制度的人種差別」や「白人至上主義」が、事実でないことを多くの有権者は見抜いていることを示している。米国は、主流メディアや民主党が考えているような国ではないということだ。(聞き手・ワシントン山崎洋介)

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