ワシントン・ポスト紙の出口調査によると、外交政策が最も重要だと回答した人の中で共和党のトランプ前大統領支持は57%だったのに対し、民主党のハリス副大統領は37%だった。バイデン・ハリス政権下でウクライナ戦争やイスラム組織ハマスとイスラエルの戦争が起きる中、国際情勢が比較的安定していたトランプ政権時代の実績が見直された結果だ。
「トランプ氏は本能的に抑止術を理解している」。マシュー・クローニグ大西洋評議会副会長とダン・ネグリア同「自由・繁栄センター」上級部長は10月にウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙への寄稿で、こう指摘する。
エスカレーションを避けることを最優先事項としたバイデン政権に対し、トランプ氏は、敵にレッドライン(越えてはならない一線)を越えた場合に何が起きるかを明確に伝えた。例えば、先月のWSJ紙とのインタビューでは、在任時にプーチン氏にもしウクライナに侵攻すれば「モスクワの真ん中を攻撃する」などと警告したと明かした。
また、シリアのアサド政権が化学兵器を使用したとして、同国の軍事施設を攻撃するなど、警告を実行に移した。これにより、効果的な抑止が可能になったという。
2期目では、すでに起きている紛争でこうした「力による平和」に基づく外交手腕が試される。長期化するウクライナ戦争への対応について、トランプ氏は「1日」で解決するとするが、具体的な方法については明かしていない。
元米大統領副補佐官で次期政権入りも取り沙汰されるフレッド・フライツ氏は6日、米メディアに「国家元首は同意できない人とも対話する意思を持つべきだ」と述べ、トランプ氏がプーチン氏との直接交渉で解決する必要があると語る。
トランプ氏はロシア寄りとみられがちだが、1期目の在任時に、ウクライナに対戦車ミサイル「ジャベリン」を供与したほか、ロシアの天然ガスを欧州に運ぶパイプライン「ノルドストリーム2」を中止するようドイツに圧力をかけるなど、実際には強硬なものだった。
トランプ氏は2019年のベトナム・ハノイでの米朝首脳会談の際、北朝鮮が提示した非核化措置が不十分だったとして交渉を決裂させた。自らの交渉術を誇示してきたトランプ氏が、後に「失敗」と見なされるような安易な妥協に走るリスクは少なそうだ。
一方、ウクライナ支援に批判的なバンス次期副大統領だが、その理由の一つは、限られた軍事資源を米国にとって「最大の脅威」と見なす中国の抑止に向けたいとの考えからだ。同氏は2月のミュンヘン安全保障会議で、「米国は東アジアにもっと焦点を当てなければならない。それが今後40年間の米外交政策の未来だ」と主張する。
次期政権入りも取り沙汰されるオブライエン前大統領補佐官(国家安全保障担当)は6月、フォーリン・アフェアーズ誌への寄稿で、空母の一つを大西洋から太平洋に移動させるとともに、海兵隊全体を太平洋に配備することを提案している。対中抑止を見据えたアジア重視の姿勢は、共和党内で支持を得ている。
一方で、トランプ氏は選挙期間中に台湾有事に対して軍事力を行使するのかとの質問に、「そうする必要はない。なぜなら、彼(習近平国家主席)は私を尊重し、私が狂っていることを知っているからだ」と抑止に自信を示した。ただ、台湾について「米国に保護料を払うべきだ」などとも批判した。防衛費の増額も求めている。
日本にも防衛負担拡大などを要求してくる可能性がある。日本は、自主防衛力の増強など自助自立の取り組みを続けることが一層、求められることになりそうだ。(ワシントン山崎洋介)