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トランプ氏、犯罪増を主張 データ欠落で実態把握困難に 米大統領選争点の治安問題

先月10日、ペンシルベニア州フィラデルフィアで 行われたハリス副大統領とのテレビ討論会で意見 を述べるトランプ前米大統領(UPI)

11月に実施される米大統領選では、米国内の治安問題が争点の一つとなっている。共和党候補のドナルド・トランプ前大統領は、犯罪率が上昇しているとして、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領らの責任だとしている。一方、ハリス氏側は、政権発足以来、むしろ犯罪率が低下していると主張。両者が相反する主張をするのは犯罪データに欠落があるため、実態把握が困難な現状がある。(ワシントン山崎洋介)

トランプ氏は、先月10日のハリス氏とのテレビ討論会で、主催したABCニュースの司会者との間で、犯罪データを巡り応酬となった。

トランプ氏は、ハリス氏の移民政策を批判する中で「米国で犯罪が急増している」と主張した。これに対し、司会者のデービッド・ミュアー氏は「ご存じのように、連邦捜査局(FBI)は、米国では全体的に暴力犯罪が減少していると言っている」と指摘し、発言を“訂正”しようとした。

これに対してトランプ氏は、FBIの統計について「犯罪が最も多い都市は含まれていなかった。これはインチキだ」と反発した。

この討論会で司会者は、5回にわたってトランプ氏に対してのみ、「ファクトチェック」を行ったことで、偏向しているとの批判を受けたが、これもそのうちの一つだ。

ここで、ミュアー氏が言及したのは、FBIが運営する全国的な犯罪統計「統一犯罪報告プログラム(UCR)」だ。これによると、新型コロナウイルスの感染拡大やミネソタ州で白人警官から暴行を受けて亡くなったジョージ・フロイドさんの事件後に暴動が広がったトランプ政権下の2020年に暴力犯罪率が増加。その後、バイデン政権に移行した21年以降、減少が続いている。

先月23日に発表された昨年の暴力犯罪率は前年比で約3%減少。特に殺人率は12%近く減った。

一方で、犯罪率低下を示すFBIのデータは、多くの米国民の実感とは乖離(かいり)している。昨年10月に行われたギャラップ社の調査では、77%の人が「1年前よりも犯罪が増加している」と考えていることが分かった。

この感覚は、もう一つの主要な犯罪データである司法統計局の「全国犯罪被害調査(NCVS)」とむしろ一致している。これによると、暴力犯罪はバイデン政権発足後の21年から22年にかけて急増した。22年に暴力犯罪の被害者であると答えた人は1000人当たり23・5人で、前年の16・5人から急増した。トランプ氏が犯罪増を主張する根拠となっているのもこのデータだ。

NCVSは、毎年、全米約15万世帯の約24万人を対象に、犯罪被害の頻度、特徴、その結果について聞き取りを行う大規模な調査だ。特に重要な点は、警察に報告されなかった犯罪も含めて調査していることだ。

討論会後の先月12日に発表された23年に暴力犯罪の被害者だったのは1000人当たり22・5件だった。前年とほぼ同じ水準で、依然として高止まりしている。

この発表を受け、トランプ氏は早速、自身のソーシャルメディアに「司法省は、私が討論会で絶対的かつ完全に正しかったことを示す新しい犯罪データを発表した」と投稿。さらに「これには、ここ数カ月で私たちの都市を襲った相次ぐ移民犯罪と移民強姦(ごうかん)は含まれていない。『カマラ犯罪』が米国を破壊している」と訴えた。

トランプ氏のようにFBIによるUCRのデータの信頼性を疑問視する人たちが指摘するのが、データが不完全であることだ。FBIは21年から新システム「全国事件ベース報告システム」を導入したが、地元の警察機関がそれに対応できず、報告率が低下した。その後、徐々に報告率は改善してきているものの、23年の段階で全米の警察機関のうちの約85%にとどまっている。

データを報告している警察機関の中でも、犯罪を過小評価している場合がある。例えば、犯罪データ分析を専門とするショーン・ケネディ氏がFOXニュースに語ったところによると、23年のシカゴの殺人件数はシカゴ警察の発表によれば617件であったにもかかわらず、FBIには499件しか報告されていなかった。

また、多くの都市で、左派による警察予算削減運動の影響もあり、逮捕率が低下。これにより事件があっても警察へ通報する人が減っているとの見方もある。

一方、NCVSは、被害者の自己申告に基づいているため、その正確性が保証されているわけではない。また、あくまでサンプル調査であるため、実態を完全に反映しない可能性がある。

治安問題は、大統領選の主要な争点の一つだが、データが不十分であるため、正確な実態把握は困難となっている。

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