2021年8月のアフガニスタンからの米軍撤収時の混乱の中で起きた自爆テロで米兵13人が亡くなってから3周年となった先月26日、トランプ前大統領は、アーリントン国立墓地(バージニア州)を訪れた。これを巡り、11月の大統領選でトランプ氏と対決するハリス副大統領は、「政治的パフォーマンス」だと批判。しかし、これに遺族が反発し、ハリス氏は戦死者を軽視してきたと非難した。(ワシントン山崎洋介)
「カマラ、あなたの発言は、ドナルド・トランプに対抗する大統領選において、見栄えを良くするための政治的方便以外の何物でもない。あなたは一日たりとも私たちの立場に立って考えたことがない」
自爆テロの犠牲になったジャレッド・シュミッツ伍長の義母、ジャクリン・シュミッツさんは、31日夜にX(旧ツイッター)に投稿された動画でハリス氏を痛烈に批判した。
アフガニスタンの米兵13人を含む約180人が死亡する自爆テロが起きてから3周年となる26日、トランプ氏がアーリントン墓地を訪問。しかし、そこには、バイデン大統領やハリス氏は姿を見せなかった。
その後、トランプ氏の短編動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」アカウントに約20秒の動画が投稿された。そこには、トランプ氏が「無名戦士の墓」に花輪を捧(ささ)げたり、墓石の前で遺族の話を神妙な表情で聞く様子が映し出されている。
これを巡り、トランプ氏は、同墓地の特定のエリアで政治活動を禁じる規則に抵触すると批判されることになった。
米公共ラジオ(NPR)などは、同墓地の職員が、政治活動を禁止する区域でトランプ陣営のスタッフが撮影するのを防ごうとした際に、罵倒され、脇に押しやられたと報じた。これに対して、トランプ陣営は、暴力を伴う口論があったことを否定し、ビデオ撮影の許可を得ていたとした。
その後、同墓地を管轄する米陸軍は29日の声明で、墓地にカメラマンが入るのを阻止しようとした職員が「突然押しのけられた」と主張。ただ、「同職員は告発しないことを決めた。従って、陸軍はこの問題が解決済みと考えている」と発表した。真相は不明のままだ。
こうした中、ハリス氏は31日、アーリントン墓地について「ここは厳粛な場所であり、この国のために究極の犠牲を払った米国の英雄たちをたたえるために集まる場所だ」と指摘。トランプ氏が「政治的パフォーマンスのために神聖な場を冒涜(ぼうとく)した」と主張した。
これに対し、8人の遺族たちは、トランプ氏のツイッターアカウントに相次いで投稿された動画の中で、トランプ氏を擁護するとともに、ハリス氏への不満を噴出させた。
ジャレッド・シュミッツ伍長の父親マーク・シュミッツさんは「われわれ13家族は、3年間も待ったのに電話も来ず、議事堂で子供たちの名前が呼ばれることもない」と指摘。ハリス氏の投稿について「皮肉なのは、あなたは本当は軍隊や退役軍人のことなどどうでもいいと思っていることだ」と批判した。
テイラー・フーバー2等軍曹の父ダレン・フーバーさんは、「招待したのはわれわれであり、映像や写真の撮影をお願いしたのもわれわれだ」と強調。さらに「(職員への)暴力などなく、そのようなことが起きたという話を聞いていない。どこから出てきた話か知らないが、ひどいことだ」と訴えた。
またニコール・ジー軍曹の義母クリスティ・シャンブリンさんは「トランプ前大統領とそのチームは礼儀正しく、私たちの話に耳を傾け、多くを語らなかった」と指摘。「ハリス副大統領、なぜあなたは自らお悔やみの言葉を述べないのか。まだ一度も聞いたことがない」と述べた。
今回のトランプ氏のアーリントン墓地訪問を巡っては、同氏が「政治利用」した問題として報じられた。しかし、ハリス氏の発言に遺族が反発することで、バイデン政権が、アフガン撤退による戦没者やその遺族たちから目を背けてきたことに焦点が当たる形となっている。