米国と接するメキシコの北部国境では、過去10年間にわたって緊張が続いてきた。両国は異なる方法で移民問題に取り組んできたものの、必ずしも相手国から好意的に受け入れられたわけではなく、両国間に摩擦を引き起こしている。(ハンソニー・オヘダ)
トランプ米政権(2017-2021年)の主要な移民対策は、不法移民の越境を阻止するための「国境の壁」建設だった。だが、このプロジェクトは未完成に終わった。また、厳しい「ゼロトレランス」政策を導入し、不法に国境を越えた多くの人々が拘束され、家族が分断される事態を招いた。
この政策は国際的な批判を呼び、最終的には停止に追い込まれた。さらに、トランプ大統領は、幼少時に親に連れられるなどして不法入国した若者を強制退去対象から外す救済措置「DACA」を廃止しようとしたが、最高裁がこれを阻止し、DACAは継続された。
また、亡命申請に対する規制を強化し、米国での手続きが完了するまでメキシコに滞在することを義務付ける「移民保護プロトコル」を推進した。
これらの措置は移民の数に大きな影響を与えた。移民保護プロトコルやその他の移民政策により、亡命申請や就労ビザの発給、難民の受け入れ許可が減少した。
一方、メキシコでは、ペニャニエト政権(2012-2018年)下で2014年に、メキシコ南部国境での移民の流入を減らすための「南部国境」プログラムが導入された。このプログラムにより、グアテマラやベリーズとの国境でパトロールや検問が強化され、移民検査所が設置された。また、これらの国からの移民がメキシコ南部のいくつかの州に滞在するのを許可し、「地域訪問者カード」を発行し、米国への入国を遅らせた。さらに、ペニャニエト政権は国際機関や市民社会団体との連携を強化し、移民が医療や教育といった基本的なサービスを安全に受けられるようにした。また、米国から強制送還されたメキシコ市民の受け入れを支援するプログラムを促進した。
メキシコでの移民の拘束者数は、2015年には13万人に達し、2013年の約8万6000人と比較して大幅に増加した。南部国境プログラムの実施により、15万人の移民が送還され、以後の数年間もこの傾向は続いた。しかし、これらの政策は移民の人権保護の欠如に対する国際的な批判も招いた。
トランプ政権の発足により、ペニャニエト政権のメキシコと米国の関係は緊張した。トランプ氏が提案した、メキシコの資金で国境の壁を建設する計画は、メキシコ大統領がツイッター(現X)で負担拒否を表明するなど、強い反発を招いた。
両国間の緊張が高まる中、ロペスオブラドール大統領は、2018年12月に就任すると、米国との友好関係を模索した。トランプ政権の圧力を受けて新設された国家警備隊をメキシコ南部国境に配備し、移民管理を強化し、移民の拘束者数を増加させた。また、米国が課す追加関税を回避するための合意の一環として、移民保護プロトコルを強化することを約束した。地域レベルでは、移民の原因に対処するため、グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルの「北部三角地帯」諸国との協力による包括的な関係を推進した。しかし、国家警備隊による移民管理は、軍事化され、人権侵害が問題視され、国際的な批判を受けた。
2021年にバイデン大統領が就任すると、トランプ政権下で導入された多くの移民政策が変更された。バイデン氏は移民保護プロトコルや国境の壁の建設を停止し、難民の受け入れ枠を拡大し、DACAプログラムを強化し、ハイチ、ベネズエラ、ミャンマーなどの紛争や自然災害の被害を受けた国々に対する「一時保護ステータス(TPS)」を延長した。バイデン政権はまた、メキシコや北部三角地帯諸国との地域協力を強化し、人道的な移民政策を策定することを目指した。
しかし、移民問題は依然、続いている。バイデン政権下の2021年には、米南部国境で過去数十年で最多の170万人以上が拘束された。バイデン氏は12万5000人の難民を受け入れることを約束したが、初年度はわずか1万1000人と、それ以前と比較して大幅に減少した。メキシコでも、2019年には18万6000人以上が拘束され、亡命申請は13万1000件に増加し、送還者数は14万1000人に達した。
現在、メキシコと米国が共同で行っている移民対策は、依然として効果を十分に挙げておらず、人の移動は高水準にある。移民を送り出す国々の経済的、社会的条件が改善されない限り、両国政府による移民管理の取り組みが効果を挙げることは難しい。