米民主党全国大会では、「リーダーシップのための使命」と題した特大版の本が、複数の登壇者によって何度もステージに持ち込まれた。これは保守系シンクタンク、ヘリテージ財団が主導する「プロジェクト2025」に基づく約900ページの報告書だが、大会用の小道具として、実際より特別に大きく作られたものだ。
マロリー・マクモロー・ミシガン州上院議員は大会初日の19日、この文書を掲げた後、演台に大きな音を立てて落とし、「これはドナルド・トランプを独裁者に変える計画」だと訴えた。ペンシルベニア州下院議員のマルコム・ケニヤッタ氏も、「中産階級を破産させ、われわれのような勤労者世帯の出費を増やす過激な計画だ」と熱を込めて説いた。
プロジェクト2025は、次期保守政権ができた時に保守系の政策を実現させることを目指すもので、幅広い政策提案のほか、人材を育成し、新政権に送り込むことも目指してきた。100以上の保守系団体が賛同し、400人以上の専門家によって作成された。元トランプ政権関係者も多く関与している。
こうしたことから、民主党はプロジェクト2025を「第2次トランプ政権の青写真」として、標的にしてきた。ただ、これには、誇張や事実と異なる主張も少なくない。ハリス副大統領も「プロジェクト2025が社会保障の削減を提案している」と誤って主張したことがあった。
一方、トランプ氏はプロジェクト2025とは距離を取っている。7月上旬には自身のソーシャルメディアで、「プロジェクト2025については何も知らないし、誰が背後にいるのかも分からない」と投稿。また、幾つかの提案について「絶対にばかげている」とも一蹴した。
その後、同月末にはプロジェクト2025の責任者で、トランプ前政権下で人事管理局(OPN)の首席補佐官を務めたポール・ダン氏の辞任が発表されると、トランプ選対は声明で「プロジェクト2025の終焉(しゅうえん)に関する報道は大いに歓迎され、トランプ前大統領と彼の選挙運動に対する影響力を偽ろうとする人やグループへの教訓になるはずだ」と突き放したコメントをした。
トランプ氏は、大統領選の争点である人工妊娠中絶問題では、「各州が決めるべき」だとの立場。中絶への規制強化を主張するプロジェクト2025と結び付けられるのを避けたいとの思いがあるとみられる。また、既成概念にこだわらず直感的に判断するスタイルのトランプ氏は、こうした政策文書によって縛られることを好まないということがある。
トランプ氏の繰り返しの否定にもかかわらず、民主党は、同氏の政策とプロジェクト2025を同一視し、批判する傾向を一層強めている。
ハリス氏が22日の指名受諾演説で、「彼(トランプ氏)は全国的な反中絶コーディネーターを創設し、各州に女性の流産と中絶について報告するよう強制する計画を立てている。つまり、彼らは正気を失っているのだ」と訴えた。実際には、これはトランプ氏の計画ではなく、プロジェクト2025に同様の提言がある。
民主党が執拗(しつよう)に同プロジェクトに攻撃を加えているのは、自らの政策への自信のなさの表れとも考えられる。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は社説で、「彼らは、自分たちの失敗した不評な政策から目をそらすために、プロジェクト2025を標的にしている」と批判した。
(米イリノイ州シカゴ山崎洋介)