11月の米大統領選に向けた民主党全国大会(19~22日)が閉幕し、決戦へ火ぶたが切られた。民主党大会を検証し、大統領選の今後を展望する。(米イリノイ州シカゴ山崎洋介)
民主社会主義者を自称するアレクサンドリア・オカシオコルテス下院議員が初日の19日夜、ステージに足を踏み入れると、代議員ら聴衆からは同氏の頭文字を取った「AOCコール」が沸き上がる熱狂的な歓迎を受けた。
4年前にオンラインで行われた党大会では、1分半の発言時間しか与えられなかった。そこでオカシオコルテス氏は、当時候補者だったバイデン大統領ではなく、同じく自称民主社会主義者のサンダース上院議員への支持を表明したことで物議を醸した。当時は、公然と党主流派に挑戦するアウトサイダーという位置付けだった。
今回、オカシオコルテス氏がヒラリー・クリントン元国務長官の直前に時間を割り当てられたことは、党内での立場が一変したことを示していた。オカシオコルテス氏が演説で時間を割いたのは、共和党候補のトランプ前大統領への批判だ。「トランプ氏が、私腹を肥やし、ウォール街の友人たちに賄賂を贈るためなら、たとえ1㌦のためでもこの国を売るだろう」。こうこき下ろすと、喝采を浴びた。
2016年のヒラリー氏とサンダース氏の対立以来続いてきた「主流派」と「急進左派」による民主党内の激しい路線対立は、もはや見られない。党全体が左傾化したことが、その大きな理由だ。20年大統領選の際、最後まで指名獲得を争ったサンダース氏が、撤退後にバイデン氏を支持するのと引き換えに、左派の主張を一定程度、受け入れさせたのがきっかけだった。
2日目夜に歓声で迎えられたサンダース氏は、バイデン政権の実績について、「(ニューディール政策を実行した)フランクリン・D・ルーズベルト大統領以来、どの政府よりも多くのことを成し遂げた」と評価。しかし、まだやるべきこととして、医療を人権として保証することや処方薬のコストを削減するために大手製薬会社と戦うことなどを列挙、「カマラ(・ハリス副大統領)やティム(・ウォルズ・ミネソタ州知事)と協力してこの政策を実現することを楽しみにしている」とくぎを刺すことを忘れなかった。
一方、ハリス氏は指名受諾演説で、「全ての米国人の大統領になる」と約束するなど、「中道派」のイメージを前面に出した。しかし、過去には、急進左派的政策を支持してきたことで知られている。
ハリス氏は過去にサンダース氏の提唱した急進的な温暖化対策の決議案「グリーン・ニューディール」の共同提案者となったことがある。また、民間保険の廃止や、不法入国を取り締まる米移民税関執行局(ICE)の廃止も主張したこともあった。こうした過去の見解について、今どう考えているか、ハリス氏は説明を避けてきた。
副大統領候補のウォルズ氏は、かつて高校フットボールのコーチを務めていたことから、会場の聴衆は「コーチ・ウォルズ」と書かれたプラカードを掲げて、親しみやすいイメージをつくり上げていた。かつての選手たちが赤と白のユニホーム姿で登場し、ウォルズ氏を激励する演出もあった。
しかし、知事としてのウォルズ氏は、左派色の強い政策を推進している。例えば不法移民にも運転免許を与え、大学の授業料を無料にする法案のほか、中学・高校の男子トイレに女性用生理用品を置く法案にも署名した。
先月下旬に行われた「ハリスを支持する白人男性」と題したライブストリームでウォルズ氏は、「われわれの進歩的な価値観から決して逃げるな。ある人の社会主義は、別の人の隣人愛だ」と、社会主義をひるまず推進するよう訴えている。
だが、激戦州で穏健派の票を獲得するために、ハリス、ウォルズ両氏は、大統領選が終わるまでは左派としての立場を封印しようとするだろう。これに対し、トランプ氏は、「過激なリベラル」などと指摘しているが、こうした主張が有権者にどこまで浸透するかが、問われることになる。