バイデン政権、性自認巡り学校に新規則 共和が反発、26州で差し止め

6月12日、米ワシントンの連邦議会議事堂で、教育改正法第 9編(タイトル9)に関するバイデン政権の新規則を批判す るシンディ・ハイドスミス上院議員(共和党)ら(UPI)

バイデン米政権が4月に決めた教育現場でのトランスジェンダーの権利を大幅に拡大する新方針をめぐり、法廷闘争が激化している。学校側にトランスジェンダー生徒による女子トイレ使用を認めることを強いるなどの内容に、共和党系の州が反発し、提訴が相次いだ。8月1日に新方針は施行日を迎えたが、差し止め命令により、全米50州のうち24州と首都ワシントンなどでの実施に留(とど)まっている。(ワシントン山崎洋介)

バイデン政権は4月中旬、「性に基づく差別」を禁じた教育改正法第9編(タイトル9)についての新たな規則を発表。その中で、生物学的性別を意味してきた「セックス(性)」の定義を、「ジェンダーアイデンティティー(性自認)」を含むものに拡大するとした。

新規則の下では、学校側が、体は男でも「女子」を自認する生徒に女子トイレや更衣室の利用を禁止すれば、「差別」と見なされ、連邦政府からの資金を受け取れなくなるリスクがある。また、トランスジェンダーが自認する性別に沿って「彼」「彼女」などと呼ばなければ、「セクシャルハラスメント」と認定される可能性もある。

バイデン政権は、今回の新規則では、世論の反対が高まるトランス選手の女子スポーツへの参加是非について具体的な言及をせず、先送りした形にしている。しかし、新規則は課外活動も含め適用されるとされており、保守派は、学校側はトランス選手の女子スポーツ参加を認めることを強いられると指摘している。

1972年に成立したタイトル9は、本来は女性を差別から保護し、機会を拡大するものであったが、新たな規則により、むしろこうした女性の権利が損なわれる恐れがある。これに反発する26州の共和党の司法長官らは4月下旬以降、バイデン政権を相手取って、少なくとも七つの訴訟を起こした。

法廷闘争は、これまでのところ、州側が優位に進んでおり、7月末までに26州で新規則の差し止めが認められた。差し止め命令を出したケンタッキー州東部地区連邦地方裁判所のダニー・リーブス首席判事は意見書で、バイデン政権が保護対象に「性自認」を含めたことは、「タイトル9を大混乱に陥れる」と警告した。

差し止め命令は、この26州に留まらず、他の州の学校にも影響を与えている。カンザス州の連邦地裁が、訴訟に参加した保守系草の根組織「マムズ・フォー・リバティー(自由を求めるママたち)」の会員の子供が通う学校にも差し止め命令の効力を拡大したからだ。同団体の会員は、少なくとも45州にある2000以上の小中高校と700の大学にいるという。

新規則の施行に当たり、反対派は反発の声を改めて表明した。元大学フットボールコーチでもあったトミー・タバービル上院議員(共和党)は、保守系女性団体が先月31日に主催した電話記者会見で「スポーツに関しては、わが国にとって悲しい日だ」と述べた。「女子生徒は男子生徒とロッカールームを共有することを余儀なくされ、『男子』に奨学金を奪われることになる」と問題視した。

共和党が多数派を占める下院では、7月にタイトル9の新規則を覆す法案を可決。ただ、民主党が支配する上院で可決される見通しはない。

11月の大統領選の共和党候補、トランプ前大統領は、トランス選手の女子スポーツ参加を禁止するとしており、再選されれば、バイデン政権によるタイトル9の新規則も廃止する方針だ。一方、バイデン大統領や民主党大統領候補に指名されたハリス副大統領は、新規則の施行に関して声明などは発表していないようだ。世論の風向きが必ずしも好意的でないことが影響しているとみられる。

ニュースサイト「センター・スクエア」が7月に実施した世論調査では、回答者のうち新規則に48%が反対、42%が賛成した。この調査を実施したノーブル・プレディクティブ・インサイト社の研究主任であるデービッド・バイラー氏は、「共和党の政治家がこの問題を取り上げる一方、民主党の政治家がこの問題を避けようとするのは偶然ではない」とし、共和党にとって有利な争点であることを強調した。

spot_img
Google Translate »