トランプ米大統領の暗殺未遂事件からわずか2日後に始まった共和党全国大会。中西部ウィスコンシン州ミルウォーキーの会場に集まった党員たちは、トランプ氏の無事を確認するため、姿を現すのを強く待ち望んでいた。屋根の修理屋として働くミネソタ州の代議員マイケル・バンさんもその一人だった。
「米国のストリートを再び安全に」と書かれた赤いキャップを被(かぶ)り、胸には共和党のシンボルである象のバッジを輝かせていた。大会初日にトランプ氏がサプライズで登場すると、「ありがとう、トランプ大統領!」と声を張り上げた。バンさんはトランプ氏が座る会場後方を何度も振り返ってスマートフォンで写真を撮りながら、「トランプ氏が大会に来られて本当に良かった」と胸をなで下ろした。
対する民主党は「バイデン大統領降ろし」が佳境に入っていた。ワシントンで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で、バイデン氏がウクライナのゼレンスキー大統領を紹介する際、ロシアのプーチン大統領と言い間違える致命的ミスを犯し、その映像は瞬く間にSNSで拡散された。暗殺未遂事件で血を流しながら拳を突き上げ、「ファイト!(戦え)」と何度も叫んで支持者を鼓舞したトランプ氏とは対照的に映った。
「ジョー・マスト・ゴー!(バイデンは去るべきだ)」。共和党大会の取材中、何度も歓声の中で響き渡ったフレーズである。大会閉幕から3日後の21日、バイデン氏は大統領選から撤退を表明し、これが現実となった。バイデン氏は、カマラ・ハリス副大統領を後継として支持することを表明した。
共和党は大会で得た勢いと民主党の混乱を攻勢に生かすチャンスだ。党大会が開催されたウィスコンシン州の他、アリゾナ、ジョージア、ネバダ、ノースカロライナ、バージニア、ペンシルベニア、ミシガン、ミネソタの各州が大統領選の結果を左右する激戦州とされている。ミネソタとバージニアの2州を除けば、トランプ氏が優勢だ。
全米の支持率でもトランプ氏はハリス氏をリードしており、南カリフォルニア大学の最新世論調査ではトランプ氏の支持率51%に対し、ハリス氏は43%と、8ポイントの差をつけた。
ニューヨーク・タイムズ紙は、対バイデン氏でトランプ氏がこのまま激戦州すべてで優勢のまま投票日を迎えれば、同氏が勝利をすると予測。トランプ氏は、相手候補がハリス氏になった場合でも、激戦州での優勢を維持する必要がある。
党大会会場で再び出くわしたバンさんは、他の党員とともに「米国を再び強く」「トランプはウクライナ戦争を終わらせる」と書かれたプラカードを興奮冷めやらぬ表情で頭上に掲げていた。
「誰も揺さぶることはできない。誰も私たちを遅らせることはできない。そして、誰も私たちを止めることはできない」と大統領候補指名受諾演説で訴えたトランプ氏。同氏が暗殺未遂事件で奇跡的に助かったことで、共和党はより自信をつけ、その勢いを加速させている。
対する民主党は「バイデン降ろし」が成功したものの、ハリス氏の下で結束できるか不透明だ。バイデン氏という最大のライバルの撤退でチャンスを得たトランプ共和党は、新たなフェーズに入った選挙戦でこの熱気を維持できるかがカギとなる。
(米ウィスコンシン州ミルウォーキー桑原孝仁)