米共和党全国大会で、最も頻繁に取り上げられたテーマが、メキシコ国境から流入する不法移民問題だ。登壇者には、昨年不法移民に殺害された5児の母親レイチェル・モリンさんの家族も含まれていた。
「ジョー・バイデン(大統領)と彼が国境問題担当に指名したカマラ・ハリス(副大統領)は、彼らのような者たちに国境を開き、罪のない人たちを犠牲にすることを可能にしたのだ」。レイチェルさんの兄、マイケルさんが16日の演説でこう語ると、聴衆からはブーイングが起きた。
会場の参加者たちが何度も掲げたのが「今すぐ大量強制送還を!」と書かれたプラカードだ。トランプ前政権時代に移民税関捜査局(ICE)長官代理を務めたトム・ホーマン氏は17日、トランプ氏が大統領に返り咲けば、この大量強制送還が実施されるとし、「バイデン氏がわが国に釈放した何百万人もの不法入国者たちに言いたいことがある。『今すぐ荷造りを始めるがいい』」と訴えた。
トランプ氏が公約する不法移民の大量強制送還は、共和党綱領にも明記された。こうした表現は、米主流メディアからは、しばしば「反移民的」とされ、憎悪を煽(あお)る危険なレトリックと非難される。
こうした批判を踏まえ、党大会で強調されたのは、米国の法律に従って入国した「合法」移民と「不法」移民との違いだ。一部の登壇者は、本来あるべき移民の在り方として、自らの家族を例に挙げた。
インド系移民の両親を持ち、共和党の指名候補を争ったビベック・ラマスワミ氏は16日、トランプ氏の不法移民政策について次のように支持を表明した。
「われわれは法の支配を信じている。そして、合法的にこの国にやって来た移民の子供として言う。この国に入国した最初の行為が法律違反であってはならないということだ。だからわれわれは初日から南部国境を封鎖する」
南部バージニア州の同党上院議員選候補フン・キャオ氏は16日、1975年の共産主義北ベトナムによるサイゴン陥落の直前に家族に連れられて国を脱出し、米国に移住したと述べた。その上で「この偉大な国への移民として、はっきり言う。米国の法律を守り、米国文化を受け入れる気がないのなら、アメリカンドリームを求めるな」と訴えた。
バイデン政権は発足直後、国境の壁建設をはじめとしたトランプ前大統領の国境政策の多くを覆した。それ以来、南部国境で記録的な不法移民の流入に見舞われている。不法移民による治安悪化や合成麻薬フェンタニル流入などへの懸念が高まる中、一貫して強硬な不法移民対策を唱えてきたトランプ氏への支持は広がっている。
米ネットメディア、アクシオスなどが4月に実施した世論調査では、回答者の51%が、不法移民の大規模な強制送還を支持すると答えた。共和党支持者の間で68%と最も高かったが、民主党支持者の42%、無党派層の46%も支持している。
一方、米税関・国境警備局が今月15日に発表したデータで、南部国境における6月の逮捕件数が約8万4000人と前月比で29%減少したと発表した。同局は、バイデン氏が先月4日に出した不法移民抑制を目的とした大統領令の成果だとした。しかし、バイデン政権発足後、600万人を超える不法移民が流入したという状況の中、これまで問題を放置してきたことへの批判は緩まることはないだろう。
バイデン氏は21日、大統領選から撤退すると表明し、後継候補にハリス氏を指名した。国境問題を担当してきた同氏は、これまでも共和党からの批判の的になっており、大統領候補者になれば追及はさらに強まることになりそうだ。(米ウィスコンシン州ミルウォーキー山崎洋介)