【ミルウォーキー(米ウィスコンシン州)早川俊行】米共和党のトランプ前大統領が15日に副大統領候補に指名したJ・D・バンス上院議員(39)は、明確な保守哲学を持った若手政治家だ。価値観や政治スタイルの近い人物を起用することで、就任後に予想される左派勢力の激しい妨害を突破し、保守的な政策を強力に推し進めようとする決意がうかがえる。
トランプ氏への忠誠心が強いバンス氏は、穏健な無党派層を遠ざけるとして、黒人や女性の起用を望む声もあった。米国では人種や性別を何より重視する「アイデンティティー政治」の風潮が強まっているが、トランプ氏はこうした政治風土にとらわれないことを改めて明確にした。能力よりもアイデンティティーを優先し、黒人女性のカマラ・ハリス副大統領を起用したバイデン大統領とは対照的だ。
11月の大統領選を決定付けるのが、民主党が強い「ブルーウォール(青い壁)」と呼ばれるウィスコンシン、ミシガン、ペンシルベニアの接戦3州。バンス氏はこの壁を崩す上で大きな役割を果たすことが期待される。3州を含む中西部は「ラストベルト(さび付いた工業地帯)」と呼ばれるが、バンス氏は映画化された著書「ヒルビリー・エレジー」で白人労働者家庭の苦しい生活を描き、全米の注目を集めた経緯があるからだ。
バンス氏は2022年に初当選し、政治家としてのキャリアは2年にも満たない。経験不足が懸念されるが、トランプ氏は自身がアウトサイダーから大統領になっており、バンス氏に対しても過去の経験よりメディアの批判を恐れず保守的な政策を大胆に進めることを期待しているとみられる。
バンス氏について特に未知数なのが外交政策だが、今年2月のミュンヘン安全保障会議では、「米国は東アジアにもっと焦点を当てなければならない。それが今後40年間の米国の外交政策の未来になるだろう」と主張している。