
米各地の大学などで広がる親パレスチナ・デモに、中国共産党の影響があるとの見方が出ている。偽情報の分析を専門とする米ネットワーク影響研究所(NCRI)は先月発表した報告書で、中国共産党とつながりのある極左団体が、親パレスチナ運動を取り込む形で、社会不安をあおる活動をしていると指摘した。(ワシントン山崎洋介)
同報告書は、パレスチナ支持を掲げる団体の連合体「パレスチナのためのシャットダウン(SID4P)」に焦点を当てている。それによるとSID4Pは、イスラム組織ハマスがイスラエルを奇襲攻撃した昨年10月7日以降に立ち上げられ、大学キャンパスを含め各地で、建物の占拠や道路の封鎖など直接行動を伴う抗議活動を数多く実施してきた。
例えば、昨年12月、ロサンゼルス国際空港とニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港の周辺で、パレスチナ支持者によるデモにより車の通行が妨害されるなどして数十人が逮捕された。また、ニューヨーク市内で今年1月、親パレスチナのデモ隊がブルックリン橋など三つの橋を封鎖し、合わせて少なくとも300人が逮捕された。
七つあるSID4Pの主要団体のうち三つは、極左団体である「人民フォーラム」「国際人民会議」「ANSWER連合」だが、報告書によると、これらは中国共産党とつながりのある富豪、ネビル・ロイ・シンガム氏と深い関わりがある。三つの団体は、シンガム氏を中心とした、「財政、人材、イデオロギー面でのつながり」で結ばれた複雑なネットワークの一部であるという。
ニューヨーク・タイムズ紙の昨年8月の調査報道によるとシンガム氏は、「長年毛沢東主義を崇拝してきた」人物で、上海に居住し、「中国のプロパガンダ会社」である上海馬酷文化通信と事務所を共有している。自身が創設したソフトウエア会社を2017年に7億8500万㌦で売却。中国政府系メディアと連携し、「世界中での中国のプロパガンダ活動に資金を提供」してきた。
報告書によると、シンガム氏から各団体への資金の流れは複雑で不透明だ。例えば、人民フォーラムは、2017~22年にかけて、シンガム氏から2000万㌦を「ゴールドマン・サックス慈善基金」(GSPF)を通じて受け取った。GSPFは寄付者の身元を隠しつつ、米非営利団体への多額の送金を行うための手段となっているという。
この人民フォーラムは、コロンビア大学で起きたデモ隊による建物占拠にも関与している可能性がある。同団体のリーダーの一人であるマノロ・デ・ロス・サントス氏は4月29日夕方、同団体のマンハッタン事務所で、コロンビア大学に「野営地」を設置し抗議活動を行っていたデモ隊を含め100人以上の活動家で集会を行った。
そこで、サントス氏は、「ジョー・バイデンに熱い夏を」と訴えた上で、全米各地で「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大事、BLM)」運動による暴力を伴う激しい抗議活動が巻き起こった「2020年の夏」を再現するよう呼び掛けた。
この数時間後、活動家らがコロンビア大学のハミルトン・ホールを占拠した事件が起きた。ニューヨーク市警によると、コロンビア大学では逮捕者の25%以上、ニューヨーク市立大学では60%以上が学生ではなかったと発表しており、外部関係者があおった可能性が指摘されている。
報告書によると、ANSWER連合は、GSPFから別の団体を介して過去5年間で24万4千㌦を受け取っている。また、国際人民会議は、「労働組合、政党、社会運動の統括組織のようなもの」で、シンガム氏の直接の関与の下、重要な調整役を果たしているという。
さらに、こうした団体は互いに連携しながら、ソーシャルメディアを通して、主張を拡散するための取り組みも行っているという。
報告書は今後の見通しとして、こうした団体は「今年夏の期間から大統領選に向けて、社会不安をあおり続けるだろう」と予測している。さらに「広範な暴動や抗議行動によって選挙プロセスが妨害されるというシナリオにエスカレートする可能性さえある」とも警告する。