【ワシントン山崎洋介】中国政府は合成麻薬「フェンタニル」の原料の製造・輸出を行う企業を支援することで、米国で薬物蔓延(まんえん)による社会危機を引き起こしている。16日に発表された米下院中国特別委員会の報告書はこう結論付けた。米国で乱用が社会問題となる中、中国政府の関与を示したものとして注目される。
フェンタニルは中国企業が原料を製造してメキシコに輸出し、麻薬カルテルを経由して米国に密輸されている。これにより深刻な社会問題を引き起こしている。
報告書によると、中国政府はフェンタニルやその原料を輸出する企業に税金還付や補助金を与えている。例えば、同委員会が入手した資料によると、2018年までに、税の還付制度により、少なくとも17種類の違法な麻薬の輸出を奨励している。このほか、フェンタニルなど違法な合成麻薬を扱う企業に地方政府が補助金を出したり、表彰したりする例も挙げられている。
また報告書によると、中国政府機関が違法な合成麻薬の販売を行う企業の株式を所有し、事実上、国有企業となっているケースが複数ある。これらのうち世界最大規模のフェンタニル原料の輸出企業は、違法な麻薬販売を公然と行いながらも、「共産党幹部から繰り返し称賛された」という。
さらに、中国が「人類史上最も進んだ全体主義的監視国家」であり、違法な薬物製造や輸出を取り締まることができるにもかかわらず、それを怠ってきたと指摘。米国の法執行機関が捜査のため中国に正式な協力要請を行った際には、中国当局が中国企業側にそれを通知し、犯罪行為が露見しないようやり方を変えさせたとした。
報告書によれば、中国政府はフェンタニルの輸出促進を米国に対する「非対称戦」(軍事力や戦略・戦術が大幅に異なる戦争)の一部と見なしている。中国軍の戦略家たちが著書の中で、「麻薬戦争は他国に災難をもたらし、莫大(ばくだい)な利益をもたらす」として、有効な非対称戦の手段の一つに挙げているという。
その上で報告書は、フェンタニルの世界的なサプライチェーン(供給網)を標的にしたタスクフォースの創設や麻薬密売に関与する者に対する制裁強化を議会に提言した。
バイデン大統領と習近平国家主席による昨年11月の米中首脳会談では、原料を製造する中国企業を取り締まることで合意された。しかし、報告書によれば、中国政府によるフェンタニル輸出業者への支援は現在も続けられており、有効な対策は取られていないとみられる。
16日開かれた議会公聴会で証言したウィリアム・バー前司法長官は、「中国共産党は単なる傍観者ではない」と指摘。「彼らは米国内で流通するフェンタニルとその原料の生産と輸出を積極的に支援し、奨励し、促進している」と非難した。
また、同委員会のマイク・ギャラガー委員長(共和党)は「中国共産党の行動から、彼らがより多くのフェンタニルを米国に流入させたいと考えていることが分かる」と強調。その上で「彼らはフェンタニルの蔓延による混乱と荒廃を望んでいる。米国人の死者が増えてほしいと思っているのだ」と訴えた。