
トランプ前米大統領を追及する検察側の不適切な行為が疑われている。トランプ氏が2020年大統領選で敗北した南部ジョージア州の結果を覆そうとしたとして訴えられた刑事訴訟では、思いがけず浮上した疑惑によって、攻守が入れ替わる異例の展開となった。
「あなたは勘違いしている。裁判にかけられているのはこの私ではない。2020年に選挙を盗もうとした者たちが、裁判にかけられているのだ」
トランプ氏に対する刑事訴訟を担当する同州フルトン地区検察のファニ・ウィリス検事長(民主党)は、疑惑を追及する被告側の弁護人に強く反発した。これは、ウィリス氏の疑惑を巡ってフルトン郡高等裁判所が2月中旬に開いた聴聞会での一場面だ。
ウィリス氏は昨年、トランプ氏ら19人を起訴した。しかし、今年に入り、ウィリス氏がこの裁判を担当するために任命した特別検察官のネイサン・ウェイド氏が愛人であったことが明るみになったのだ。
被告側の弁護人によると、ウィリス氏はそれまで刑事事件を起訴した経験がほとんどなかったウェイド氏を特別検察官に任命。支払われた「法外」な報酬を用い、2人でフロリダ州やカリブ海などで豪華な休暇を過ごすなどしていたという。
全米にテレビ中継された聴聞会で、追及を受ける立場となったウィリス氏は、時折、椅子の背もたれに深く寄り掛かりながら、強気な態度で反論した。だが、これで疑惑が払拭されたわけではない。
ウィリス氏は、ウェイド氏と交際していたことは認めた。しかし、その時期を巡って弁護側の証人の発言と真っ向から食い違った。
聴聞会で、ウィリス氏とウェイド氏は共に、2人の恋愛関係はウェイド氏が採用された21年11月以降に始まったと主張。つまり、「愛人だから雇われた」わけではない、というのだ。
しかし、弁護側の証人で、ウィリス氏の元友人は、両氏が19年に「間違いなく」交際を始めたと証言した。2人がハグやキスをしているのを目撃したという。
またトランプ氏の弁護士が証拠として提出した携帯電話のデータによると、ウェイド氏は、ウィリス氏に採用される前に、同氏の自宅エリアに30回近く滞在したという。
一方、ウェイド氏の報酬から支払われたとされる旅行費用について、ウィリス氏はその都度、現金で自らの分をウェイド氏に手渡していたと証言した。ただ、その裏付けとなる証拠は示さなかった。
裁判所は、ウィリス氏がトランプ氏に対する裁判を担当する資格を剥奪するか、近く判断する。仮にそれが認められなかったとしても、すでに政治的動機に基づくことが疑われていたこの裁判の信用性に大きな打撃を与えたことは間違いない。
共和党主導のジョージア州議会は、疑惑を調査するため、召喚権を持つ調査委員会を設置した。こうした追及の動きは、ウィリス氏が失格になるかにかかわらず、今後も続くとみられる。
疑惑浮上によりすでに審議に遅れが出ており、11月の大統領選までに判決が下されない可能性が出ている。トランプ氏が大統領選に勝利した場合、訴訟は同氏の在任中は保留されるだろうと指摘する法律専門家もいる。仮にウィリス氏が失格になれば、他の検察官が訴訟を引き継ぐ可能性があるが、さらなる遅れが生じることになる。
当初ウィリス氏は前大統領の“不正”に立ち向かう大胆な女性地方検事としてリベラル派から称賛を浴びた。それが一転、疑惑により窮地に陥り、裁判の先行きは見通せなくなっている。
(ワシントン山崎洋介)