法治揺るがす「法律戦」「免責」否定なら深刻な禍根【連載】ゆがむ民主主義―異例の米大統領選(3)

2 月 8 日 、 米 ワ シ ン ト ン の 連 邦 最 高 裁 前 で 「 ト ラ ン プ 氏 を 排 除 せ よ 」 と い う 巨 大 横 断 幕 を 掲 げ る 活 動 家 ( U P I )

米民主党は民主主義を守るという大義名分の下、共和党のトランプ前大統領に対し、武器ではなく法律で敵を倒そうとする、いわゆる「ローフェア(法律戦)」を仕掛けている。だが、トランプ氏を排除するために法律を乱用することは、米国の法秩序に深刻な禍根を残す恐れがある。

トランプ氏を巡る数々の裁判の中でも、とりわけ重要な意味を持つのが、大統領在任中の行為に関する「免責特権」の議論だ。トランプ氏は2020年大統領選の結果を覆そうとしたとして訴追された刑事裁判に対し、「弾劾裁判で有罪とならない限り刑事訴追されない」と訴えている。

連邦地裁、高裁はトランプ氏の免責特権を否定したが、最高裁は先月28日、大統領の免責特権の有無や範囲を審理することを決定。これにより、この刑事裁判の開始は夏以降にずれ込み、判決も11月の大統領選後になる可能性が出てきた。

トランプ氏の対応を「時間稼ぎ」などと批判する声が多い。もちろん、トランプ陣営にその思惑があるのは間違いない。だが、免責特権は国家の根幹に関わる問題であり、政治日程とは関係なく慎重な審理と判断が求められる。

最高裁は1982年に、ニクソン元大統領が元国防総省職員から不当に解雇されたとして訴えられた民事裁判で、大統領の「公式行為」には「絶対的な免責特権」があるとの判断を示した。「大統領の職務は極めて重要であるため、私的な訴訟への懸念に大統領のエネルギーが削(そ)がれることは、効果的な政府機能にリスクをもたらす」からだ。

国家の最高指導者が訴訟を恐れて決断を躊躇(ちゅうちょ)することがあってはならない。最高裁が大統領の免責特権を「絶対的」なものとして保障したのは常識的な判断である。ところが、高裁はこの最高裁判例がまるで存在しないかのようにトランプ氏の免責特権を全面否定したのだ。

大統領が免責特権を失えば、どのような事態が起こり得るか。例えば、国際テロ組織とつながりのある米国人に対する軍事攻撃を命じたことで刑事訴追されることも考えられる。安全保障上の重大事案で大統領の行動が制約されれば、米国だけでなく国際秩序にも甚大な悪影響を及ぼす。

高裁はトランプ氏のケースは特異であり、将来の大統領には影響がないとしているが、これは願望にすぎない。仮に、トランプ氏が免責特権を認められずに有罪になりながらも、大統領に返り咲いた場合、バイデン大統領に報復する可能性が高い。実際、トランプ氏は「ジョー(バイデン氏)は訴追されるだろう」と明言している。そうなれば、大統領経験者は新政権によって刑務所に送られるという泥沼の「報復の連鎖」に陥りかねない。

前回大統領選後のトランプ氏の行動に問題があったのは確かだ。だが、これが免責特権が適用される「公式行動」の範囲内だったかどうかを問うのではなく、トランプ氏の免責特権を全面否定するのはあまりに危険である。

また、トランプ氏を訴追したジャック・スミス特別検察官は、裁判が遅れることは有害だとして最高裁に高裁判断の維持を求めていた。スミス氏と同氏を任命したバイデン政権にとっては、免責特権の厳正な判断よりも、「トランプ有罪」を選挙前に間に合わせるという政治目的の方が大事なのである。

免責特権の問題は「トランプ氏の運命をはるかに超えて重要」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)であるはずだが、度を越した「法律戦」が逆に法治を脅かしている。

(編集委員・早川俊行)

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