トップ国際北米議会乱入事件の「真実」 「反乱」と誇張し政治利用 【連載】ゆがむ民主主義―異例の米大統領選(2)

議会乱入事件の「真実」 「反乱」と誇張し政治利用 【連載】ゆがむ民主主義―異例の米大統領選(2)

2 0 2 1 年 1 月 6 日 、 米 ワ シ ン ト ン の 連 邦 議 事 堂 に 乱 入 す る ト ラ ン プ 前 大 統 領 の 支 持 者 ら ( U P I )

「私の前任者たちは、1月6日の真実を葬り去ろうとしている」

バイデン米大統領は7日、再選に向けた、論戦の事実上の幕開けとなった一般教書演説で、3年前に起きたトランプ前大統領の支持者による連邦議事堂乱入事件について、怒気を含んだ声で激しく非難した。関与したトランプ支持者たちを「反乱者」と呼び、事件を「南北戦争以来の民主主義への脅威」と断じた。

だが、バイデン氏や民主党が主張する事件の「真実」は、事実に基づいたものなのか。そこで焦点となるのは、事件が本当に「反乱」だったかどうかだ。

英語で「反乱」を意味する「インサレクション(insurrection)」は通常、組織的な暴力行為により政府転覆を目指す行為を意味する。

トランプ支持者の暴力性については、事件直後から誇張されたイメージが拡散されていた。その最たる例が、ニューヨーク・タイムズ紙が事件翌日に報じた内容だ。そこでは、連邦議会警察のブライアン・シックニック巡査が、トランプ支持者によって「消火器で殴打されて負傷し、翌日夜に死亡」したと伝えた。

しかし、それから3カ月経(た)って、死因は「脳卒中による自然死」であったとの検視結果が発表された。誤報であったことが判明したのだ。

事件による直接的な死者は、割られた窓ガラスから突入しようとして警官によって射殺されたトランプ支持者の女性のみだ。連邦捜査局(FBI)によると、この事件で銃が発砲されたのは、この一発のみだという。

政府転覆の試みであったかについては、ロイター通信が2021年に報じたところによると、FBIは、政府転覆を図るために議事堂を襲撃する「大掛かりな計画はなかった」と判断した。さらに、事件に関連して不法侵入や警察官への暴行などで起訴されたのは1200人以上に上るが、このうち「反乱」を理由に起訴された者は一人もいない。

昨年11月にジョンソン下院議長(共和党)が公開した映像にはトランプ支持者たちが、警察官たちの誘導の下、議事堂の廊下を緊張感なくぞろぞろと歩く様子が映されていた。これが「武装蜂起」を行っている集団には全く見えない。

このように事件が「反乱」だったという証拠は乏しい。むしろ、過熱した政治的抗議活動が暴走し事件に至ったとみるのが妥当だ。

しかし民主党は、トランプ氏排除という政治目的のため、事件の危険性を煽(あお)ってきた。事件を調査する下院特別委員会は22年12月、トランプ氏を「反乱扇動」などの容疑で訴追するよう司法省に勧告。これがその後、20年大統領選の結果を覆そうとしたことを巡る同氏に対する刑事訴追などの動きにつながった。

「事件を組織化された武装蜂起として誇張するのは、危険な政治的煽動(せんどう)だ」。元ワシントン市検事総長補佐のジェフリー・スコット・シャピロ氏は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙への寄稿で、こう指摘。全米のトランプ支持者に、不当な汚名を着せることで、「行き過ぎた法の執行や言論の自由の萎縮効果につながる」と警告した。

法を犯したトランプ支持者が厳正な裁きを受けるのは当然だ。また、トランプ氏の言動がこうした支持者の感情を煽ったとすれば、批判を受けてしかるべきだ。

だが、バイデン氏は再選戦略として、トランプ氏を民主主義に脅威を与える「危険人物」として描くことで、事件を政治利用してきた。米国の分断を煽るこうした政治手法が、今回の選挙戦に重苦しいトーンを付け加えている。

(ワシントン山崎洋介)

spot_img

人気記事

新着記事

TOP記事(全期間)

Google Translate »