トランプ前米大統領に対する刑事訴訟を担当するジョージア州フルトン地区検察のファニ・ウィリス検事長が、特別検察官に自らのボーイフレンドを選んだ疑惑が浮上している。不適切な関係により個人的な利益を得ていたとされており、これが事実であれば、訴訟にも打撃を与えることになりそうだ。(ワシントン・山崎洋介)
この疑惑は、2020年米大統領選で同州の結果を覆そうとしたとしてトランプ氏と共に起訴されたマイケル・ローマン氏が8日に提出した法廷書類により浮上した。
これによると、ウィリス検事長は特別検察官に選んだネイサン・ウェイド氏と恋愛関係にあり、同氏がトランプ氏に対する裁判を担当することで受け取った報酬を用い、二人でフロリダ州やカリブ海などで豪華な休暇を過ごすなどしていたという。
疑惑を受け、ウェイド氏の特別検察官としての資質に疑問が投げ掛けられている。
米メディアによると、ウェイド氏はそれまで刑事事件を起訴した経験はほとんどなく、主に交通違反切符を扱う地方判事を務めるなどしていた。
ウェイド氏には妻子がいるが、特別検察官に任命された21年11月1日の翌日に離婚を申請している。ローマン氏は、ウェイド氏の事務所に2年間で65万ドル以上という「法外」な報酬が支払われたと主張している。
またローマン氏は、ウェイド氏が22年に2度ホワイトハウスを訪問したとしており、バイデン政権が起訴に関与した可能性も指摘されている。トランプ氏や共和党議員らは、ホワイトハウスにこの件についての情報開示を求めている。
ウィリス氏はこうした追及に対し、人種差別的な攻撃だと反発したが、疑惑について否定はしていない。こうした中、当初はウィリス氏を批判することに消極的だった同州の共和党関係者も態度を変えてきており、ケンプ知事はニューヨーク・ポスト紙に、疑惑を「深刻な問題」だとし、調査する可能性を示唆した。
今年11月の大統領選の有力候補であるトランプ氏は、同州を含め4件の刑事訴追を受けているが、世論調査によれば、米国民の半数程度が、これらが政治的動機に基づくものだとみている。今回のスキャンダルは、裁判に対する正当性をさらに損なう可能性がある。
疑惑浮上後にラスムセン社が行った世論調査では、「ウィリス氏は信用を失っており、トランプ氏に対する裁判は取り下げられるべきだ」との意見に49%が同意し、反対は41%だった。また、ウィリス氏がウェイド氏と「不適切な関係」があった可能性が高いと信じている人は50%に対し、可能性が低いと考えている人は30%だった。
こうした中、トランプ氏は16日の選挙集会で、民主党が「司法を武器化し、政敵を狙ってきた」と批判。ウィリス氏らについては「経験の乏しい弁護士のボーイフレンドに100万ドル近くを支払い、美しいクルーズ船の旅に出掛けた。われわれの税金を使ってだ。彼らは腐敗した連中だ」とこき下ろした。
また自身のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」で、「無実の人々を違法かつ政治的に迫害したことに対する謝罪と損害賠償とともに、私や他の人々に対するすべての訴追を直ちに取り下げるべきである」と訴えた。
フルトン郡高等裁判所は、2月15日にウィリス氏から疑惑について聞き取りを行う。
仮に疑惑が証明され、ウィリス氏が失職したとしても、他の検察官が訴訟を担当し、訴訟が継続する可能性も指摘される。しかしその場合でも、裁判を不公正と見なす世論が高まり、訴訟の進行も遅れるなど、大きな影響が出ることは間違いない。