イスラム組織ハマスが先月7日にイスラエルを攻撃して以来、欧米の大学キャンパスなどで反ユダヤ主義に基づく暴力・脅迫事件などが急増している。「世界反ユダヤ主義政策研究所」の所長であるチャールズ・スモール氏にその背景について聞いた。(聞き手=ワシントン・山崎洋介)

――反ユダヤ主義が高まっている背景には何があるのか。
われわれの調査が突き止めたのは、中東の産油国カタールから米国の大学に何十億㌦もの資金が流れ込んでいたことだ。カタール王室の知的・精神的指導者はイスラム組織ムスリム同胞団であり、カタールは本質的にムスリム同胞団だ。
約100年前にエジプトで設立されたムスリム同胞団は、欧州の反ユダヤ主義やナチズムを取り入れ、曲解されたイスラム教の教義と融合させた。彼らは世界中のユダヤ人の殺害や滅亡を呼び掛け、民主主義社会を破壊してカリフ(預言者ムハマンドの後継者)制に置き換えようとしている。
カタールから多額の資金提供を受けてきた大学界では、この30~40年のうちに、ユダヤ人やシオニズム(ユダヤ人国家建設運動)に関する言説が一変した。
ユダヤ人はナチスによるホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の時代は、白人でないという理由で捕らえられ、殺害された。われわれユダヤ人は、白人であるアーリア人種の純潔さを汚しているとされたのだ。
しかし今の知識人や学生たちは、ユダヤ人は白人であり、諸悪の根源であるかのように言っている。ユダヤ人は「白人至上主義者」「植民地主義者」「占領者」「ナチス」であり、「アパルトヘイト(人種隔離)体制を支持している」というのだ。
こうした知識人たちは、2世代も経(た)たないうちに、白人でないとされてきたユダヤ人を白人だと定義し直した。そして、イスラエルがアパルトヘイト国家であり、ユダヤ人が白人至上主義者であるならば、彼らを殺害し、レイプし、首を切る行為は正当化される、というのがこうした知識人たちのメンタリティーだ。
――ユダヤ人を白人至上主義者などとするイデオロギーのルーツは何か。
コロンビア大学教授だった哲学者の故エドワード・サイード氏は1980年代初頭、パレスチナ人である自らを「最後のユダヤ人知識人」であると主張した。
フランクフルト学派(新マルクス主義の源流の一つ)の思想の継承者であるサイード氏は、パレスチナ人こそが「ユダヤ人」であり、本来のユダヤ人については「ファシスト」「ナチス」であるとした。当時の人々は、彼がやや正気ではないと考えた。
しかしそれから40年後、大学がムスリム同胞団とつながりが深いカタールから数十億㌦を受け取り、教授職を設け、研究所を設立し、出版部門が支配されていくうちに、サイード氏の主張に沿う方向に言説がシフトしていった。
われわれの調査は、米国の大学こそが反ユダヤ主義の源泉であることを示した。反ユダヤ主義は社会から大学に流入しているのではなく、むしろ大学から社会へと拡散されているのだ。
――このイデオロギーは、“文化マルクス主義”から来たものだということか。
そうだ。われわれはこれを、イスラム過激派と極左勢力による「赤(共産主義の象徴)と緑(イスラム教の象徴)の同盟」と呼ぶ。
イスラム過激派は、米国など西洋諸国による「覇権主義」に反発し、中東地域からこうした国々の影響を排除したいと考えている。マルクス主義者もこれに賛同する。彼らは民主主義諸国を弱体化させること、そしてユダヤ人を憎悪することにおいては一致しているのだ。