
イスラム組織ハマスによる10月7日のテロ攻撃の直後、米国の大学でイスラエルへの一方的な非難が相次いだ。米大学では近年、左派思想の浸透により反ユダヤ主義が高まっていることが指摘されており、懸念する声が上がっている。(ワシントン・山崎洋介)
ハマスによる攻撃の直後、ハーバード大学の30以上の学生団体が署名した書簡を発表し、「今日の出来事は何もないところから起きたわけではない。責められるべきはアパルトヘイト(人種隔離)政権だけだ」とイスラエルを強く非難。「すべての暴力に責任があるのはイスラエルの政権だ」として、攻撃を受けた側であるイスラエルを一方的に批判した。
世界的な名門大学である同大の学生によるこの声明は大きな注目を集めた。同大学ロースクールの卒業生である共和党のテッド・クルーズ上院議員はX(旧ツイッター)で、「燃えるような憎悪と反ユダヤ主義は全く目がくらむ」と問題視した。
イスラエルへの強い非難は全米の大学に広がっており、ニューヨーク大学の学生法曹協会の会長が10月10日、オンライン・ニュースレターに、「イスラエルは、この甚大な人命の損失に対して全責任を負う」と書いたことで、大学からの調査を受けることになった。また、コーネル大学では、歴史学の教授が同月15日にニューヨーク市で行われた集会で、ハマスによる虐殺を「爽快で元気づけられる」出来事だと表現し、後に謝罪に追い込まれた。
さらに、カリフォルニア大学デイビス校では、准教授がソーシャルメディア上でユダヤ人に対する暴力を呼び掛けたとして、大学当局から調査を受けた。また、コロンビア大学では、24歳のユダヤ系イスラエル人男子学生が、ハマスに人質に取られたイスラエル人のチラシを破っていた19歳の女子学生に棒で殴られる暴行を受けた。
米国の大学キャンパスにおけるユダヤ人に向けられた憎悪は、ハマスによる攻撃の前からすでに高まっていた。9月に発表されたイプソスの調査によると、米国のユダヤ系大学生の57%が、「反ユダヤ主義」を目撃または経験したことがあると回答している。
こうした状況の中、84人の超党派の上下院議員は8月、カルドナ教育長官に宛てた書簡で、「大学やカレッジキャンパスで反ユダヤ主義的な事件が増加していることを深く憂慮している」と表明。こうした事件についての調査を促進するよう求めていた。
大学内で反イスラエル感情が高まる背景には、多くの大学で推進されてきた左派思想の影響を受けた「多様性、公平性、包括性」(DEI)プログラムの影響が指摘されている。「多様性」を掲げているものの、実際にはむしろユダヤ人への憎悪を助長してきたというのだ。
カリフォルニア州のデアンザカレッジでDEI責任者を務めていたタビア・リー氏は、10月18日のニューヨーク・ポスト紙への寄稿で、「DEIは、世界は抑圧する側と抑圧される側の二つに分かれているという確固たる信念の上に成り立っている。ユダヤ人は抑圧する側に分類され、イスラエルは大量虐殺を行う植民地主義国家であるという烙印を押されている」と告発。同大の方針に異議を唱えたところ解雇されたというリー氏は、「有害なDEIイデオロギーは、イスラエルとユダヤ人に対する憎悪を意図的にあおっている」と訴えた。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙の論説委員バートン・スウェイム氏は、ハマスによる攻撃の直後にイスラエルへの非難が相次いだことについて「米国の大学で何かがひどく間違っていることを示唆している」と指摘。その上で「われわれが目の当たりにしているのは、マルクス主義と呼ぶにふさわしい思考習慣が、何十年もかけて結実した姿なのだ」とし、大学の左傾化に強い懸念を示した。