
バイデン米政権が電気自動車(EV)を推進する中、米企業と中国企業の提携に共和党議員から厳しい目が向けられている。中国の電池技術への依存を高める懸念があるほか、新疆ウイグル自治区における強制労働との関係も疑われているからだ。中でもフォード・モーターによる中西部ミシガン州のバッテリー工場建設計画が大きな焦点となっている。(ワシントン・山崎洋介)
フォードは今年2月、中国共産党系のEV用電池製造で世界最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)と提携し、35億ドル規模の電気自動車用バッテリー工場を建設すると発表した。EV生産を世界的に大幅に拡大する計画の要と位置付けているものだが、強制労働との関わりなどを巡り、共和党議員からの厳しい追及に直面した。
中国新疆ウイグル自治区からの製品輸入を原則禁止する「ウイグル強制労働防止法」が昨年、施行された。イスラム教少数民族に対する強制労働が行われているとの疑いを受けたものだ。ただ、ワシントン・ポスト紙が先月報じたところによると、実際には供給網が複雑なため、テスラなどの電気自動車メーカーは、間接的に同自治区からの物資調達が可能となっている。
CATLが問題視されているのは、同自治区において大規模なリチウム採掘や精製を行っている新疆ジーツェン・リチウムと提携していることだ。マルコ・ルビオ上院議員ら5人の共和党議員は4月、マヨルカス国土安全保障長官に書簡を送り、ジーツェンの子会社が強制労働プログラムを通じて提供された労働力を使用しているとして、CATLやジーツェンへの監視を強化するよう求めた。
フォードの工場建設を巡っては、昨年12月の段階で、ミシガンとバージニアの2州が候補地とされていた。しかし、バージニア州のヤンキン知事(共和党)は今年1月、フォードとCATLの連携によりEVの供給網における中国依存が高まる懸念があるとし、工場の建設を拒否した。
中国問題を扱う下院特別委員会のマイク・ギャラガー委員長(共和党)は、フォードとCATLの提携に関する調査に取り組んでいる。7月に同社に送った書簡では、強制労働の疑いや提携が米国の技術向上につながらないことへの懸念を表明し、両社間の契約内容などについて文書を提出するよう求めた。
こうした中、フォードは先月25日、工場建設計画の一時停止を発表した。計画見直しを求める議員からの声や、現在進行中の全米自動車労組(UAW)のストライキが判断にどの程度影響したかは不明だが、ギャラガー氏は声明で「重要な一歩」と歓迎しつつ、計画の完全な中止を求めた。
ギャラガー氏は先月27日に出演したテレビ番組で、「フォードはインフレ抑制法のドルを使って、CATLと大規模な提携を行い、それによってCATLをより支配的なバッテリー企業にしようとしていた」と批判。昨年施行されたインフレ抑制法に盛り込まれたEVに対する税額控除が、中国企業を利する形で適用される恐れがあったと指摘した。
ギャラガー氏は、フォードがこれまで再三の要請にもかかわらず、文書を提供しなかったとして、不満を示している。26日に他の議員と共に同社に送った書簡では、今後も応じなければ、ジム・ファーリー最高経営責任者(CEO)の議会証言を求める可能性もあるとするなど、引き続き真相解明に取り組んでいる。