
バイデン米大統領の息子ハンター氏と連邦検察との司法取引が先月成立したが、野党・共和党の議員たちは、同氏を巡る疑惑の追及姿勢を強めている。特にハンター氏への捜査を妨害されたと主張する内国歳入庁(IRS)の内部告発者の証言が公開され、波紋を呼んでいる。(ワシントン・山崎洋介)
ハンター氏は6月20日、脱税や銃の不法所持で連邦検察に訴追されたが、罪を認め司法取引に応じたことで、実刑を免れる見込みとなった。これについて、保守派からはバイデン一家を守るための取り組みの一環だとして、「身内に甘い」との批判の声が上がった。
その2日後の22日、共和党が主導する下院歳入委員会は、ハンター氏への捜査に政治的介入があったとする2人のIRS内部告発者による証言内容を公開した。
特に驚きを与えたのは、ハンター氏が2017年7月に対話アプリ「ワッツアップ」を通して中国共産党とつながりが深いとされるエネルギー企業、中国華信能源(CEFC)幹部のヘンリー・ジャオ氏に送ったとされるメッセージだ。その中で、ハンター氏は「私は今、父と一緒に座っているところだ」とし、ジャオ氏にその日のうちに10万ドルを送金しなければ、父親であるバイデン氏から永遠に「恨み」を買うことになると迫ったという。
もしこれが事実なら、ハンター氏がバイデン氏の政治的立場を利用して、中国企業幹部から金銭を強要していたことを示している。またバイデン氏は、息子のビジネス取引に関与していないと繰り返し説明してきたが、もし実際にその場にいたとすると、関わりを持っていたことが濃厚になる。
バイデン氏は、ホワイトハウスで記者団から、このやりとりに関与したかについて尋ねられた時、「違う!」と怒気をはらんだ声で否定したが、それ以上のことは語らなかった。
2人の内部告発者のうち名前を明かしているゲイリー・シャープリー氏は、6月27日に放映されたCBSテレビのインタビューで、ハンター氏による違法な経費支出の証拠を見つけたと述べた。
例えば、「売春、セックスクラブの会員権、麻薬の売人とされる人物のホテル代など、個人的な出費が事業費として計上されていた」とし、これがハンター氏でなければ、「すでに刑務所行きになっていた可能性が高い」と述べ、ハンター氏が特別扱いを受けていたと主張。さらに、自らのチームが「バイデン大統領につながる可能性のある幾つかの調査措置を取ることへの妨害を受けた」と訴えた。
シャープリー氏はこのほかにも議会に対し、ハンター氏の捜査を担当するデラウェア州のデービッド・ワイス連邦検事が「起訴するかどうかの決定者は自分ではない」と述べたとも証言している。ワイス氏が首都ワシントンなどデラウェア州以外の区域でハンター氏を起訴することを阻止されたと述べたほか、政権から独立して捜査を担う特別検察官の地位に就くことを要求したが拒否されたと語っていたとも主張した。
一方、シャープリー氏の主張とガーランド司法長官の証言とは真っ向から食い違っている。ガーランド氏は3月の議会証言で、ワイス氏はハンター氏の件に関して「完全な自立性」を持っていると主張し、デラウェア州以外でも起訴できる権限があると語っていた。また、ワイス氏自身も今月、共和党議員に宛てた書簡で、特別検察官の立場を要求したことを否定した。
シャープリー氏かガーランド氏の「どちらかが嘘(うそ)をついている」状況だ。共和党のマッカーシー下院議長は「IRSの内部告発者が述べていることが正しいと判明すれば、司法長官に対する弾劾調査を開始する」と、出演したFOXニュースの番組で語った。下院共和党は、ワイス氏の議会証言を求めている。
ハンター氏のビジネスに関する疑惑を巡っては、共和党議員らは、バイデン氏が外国企業から賄賂を受け取った可能性を指摘している。連邦捜査局(FBI)が機密の情報源から得た情報を記録する文書「FD―1023」を閲覧した共和党議員によると、ウクライナの天然ガス会社がバイデン氏とハンター氏にそれぞれ500万㌦を支払っていたという。
こうした主張は証明されてはいないものの、安全保障上の懸念を抱かせるものであり、実態解明が期待される。