【ワシントン山崎洋介】国家情報長官室は23日、新型コロナウイルスの起源に関する報告書を公開し、ウイルスの流出が疑われている中国の武漢ウイルス研究所(WIV)と中国軍との関係などを明らかにしたが、自然起源説と研究所流出説の「どちらの仮説も依然としてもっともらしい」とし、直接的な証拠はないとした。
この報告書は、米国の情報機関を統括する国家情報長官室に、WIVと新型コロナの起源の関係についての情報の機密指定を解除することを義務付けた「新型コロナ起源法」に基づいて発表された。バイデン大統領は3月に同法に署名しており、今月18日が期限だったが、5日間遅れて発表された。
情報機関が入手した情報によると、中国軍とWIVが行った研究の中には、コロナウイルスの研究が含まれており、「中国軍の研究者はウイルスやワクチン関連の研究のためWIVの研究室を利用している」と指摘。ただ、新型コロナの先祖となるようなウイルス研究が行われた情報はないとした。
新型コロナの起源を調査した機関のうち、国家情報会議と他の四つの情報機関は、自然発生の可能性が高いと評価したが、エネルギー省と米連邦捜査局(FBI)は研究室からの流出が最も可能性が高いと考えている。中央情報局(CIA)は、結論に至っていないという。
報告書は、ほとんどすべての機関が、新型コロナは「遺伝子操作された」ものではないと評価しているとし、生物兵器として開発された可能性も否定した。一方で、WIVで使用されている技術の中には、遺伝子の意図的な操作があったか判別することを困難にさせるものもあったと指摘している。
トランプ前政権下の2020年1月に国務省が公表した文書によると、武漢で最初に新型コロナ感染者が見つかったとされる前の19年秋に、WIVで数人の研究者が新型コロナと通常の季節性疾患の両方に一致する症状を示したとしていた。この研究者について、ウォール・ストリート・ジャーナル紙などは今月、WIVでウイルスの感染力を高める機能獲得研究に取り組んでいたベン・フー氏ら3人だったと報じた。
同法は、この研究者の名前や具体的な症状を明記することを求めていたが、報告書はこれらについて触れず、「研究者たちの症状は他の病気によって引き起こされた可能性があり、幾つかの症状は新型コロナとは一致しなかった」と記述。この情報は「パンデミックの起源に関するどちらの仮説も支持も反証もしない」との評価を示した。
共和党議員からは内容が不十分だとして不満の声も上がっており、マイク・ブラウン上院議員はツイッターで、「法律は完全な機密解除を求めており、(WIVに資金提供した米国立アレルギー感染症研究所前所長の)ファウチ博士をかばい、中国を守るためのメモ書きを求めてはいない」と批判。その上で「実質4ページ分の情報しかなく、そのほとんどは曖昧か、すでに報じられている」として、全面的な情報開示を求めた。