
【ワシントン山崎洋介】4日の天安門事件の34周年に合わせてブリンケン米国務長官が発表した声明が、香港や新疆ウイグル自治区、チベットにおける中国共産党の現在の人権侵害に言及しないなど、昨年と比べ中国政府への批判のトーンを弱めたことが、専門家から注目されている。バイデン政権が中国との対話再開を優先させる姿勢を反映したものとみられている。
今年の声明は天安門事件について「民主化を求め、平和的にデモを行っていた人々を容赦なく弾圧するため、中国政府が戦車を送り込んだ」と当時の中国政府の対応を批判した。しかし、昨年の声明はより長い文で犠牲者について具体的に言及し、現在の人権侵害にも踏み込む、中国にとってより厳しい内容だった。
その声明では、天安門事件について、中国共産党によって「無数の人々が投獄された」と指摘し、犠牲者の数は「今日でも不明である」と述べた。
さらに「毎年行われている天安門広場での虐殺を記念する追悼集会は、あの日の記憶を封じ込めようとする中国と香港当局によって禁止された」とし、「われわれは香港、新疆、チベットを含む中国政府の残虐行為や人権侵害に対して、今後も声を上げ、責任を取らせるようにしていく」と訴えていた。
バイデン政権は、今年の天安門事件記念日に中国にクリテンブリンク東アジア太平洋担当国務次官補ら政権高官を派遣したことでも批判を浴びた。バイデン大統領は先月21日、中国による偵察気球問題によって停滞していた中国との対話について「雪解け」は近いとの認識を示しており、対話再開を進める中、人権問題への批判を弱めている可能性がある。
トランプ政権下で国務省のイラン担当特別顧問を務めたガブリエル・ノローニャ氏はツイッターで、「このような国務省の声明を何十本も書き、交渉してきた経験から、これは単なる偶然ではないことを断言できる。国務省高官が6月4日に(天安門事件について)何も言及せずに北京を訪問したことを考えると、人権を軽視しようとする意図的な取り組みがあることが分かる」と主張した。
米シンクタンク、ハドソン研究所のレベッカ・ハインリックス上級研究員は「バイデン氏のホワイトハウスは、中国共産党の醜悪な行動についての沈黙や控えめな声明が必要だと考えていることは明らかだ」と指摘。「バイデン氏の『雪解け』の試みは実現しない。習近平国家主席がそれを望んでいないからだ」ともくぎを刺した。