
トランプ前米大統領の起訴の背後に、著名投資家ジョージ・ソロス氏の影がちらついている。 ソロス氏は各地で極左の地方検事長を当選させる運動を進めており、トランプ氏の起訴を主導したニューヨーク・マンハッタン地区検察のアルビン・ブラッグ検事長も「ソロスマネー」を受けて当選した一人だ。 トランプ氏は起訴を「政治的迫害」と批判しているが、実際に起訴は政治的動機に基づいて行われた可能性が高い。 (編集委員・早川俊行)
世界有数の大富豪であるソロス氏は長年、左派の政治家や団体に多額の資金をばらまいてきたが、近年、力を入れているのが地方検事長選だ。 ソロス氏は2015年以降、関連政治団体などを通じて自身が推す極左の地方検事長候補に資金を流し込み、非営利組織「法執行機関弁護基金」の調べでは、昨年1月までに75人以上を当選させてきた。
トランプ氏の起訴で注目を浴びるブラッグ氏も、ソロス氏の資金援助で21年に初当選した「ソロスチルドレン」の一人だ。 ソロス氏はブラッグ氏への資金提供を否定しているが、ブラッグ氏の選挙運動を支援した政治団体「カラー・オブ・チェンジ」に100万㌦(約1億3300万円)を寄付している。 友好団体などを迂回(うかい)することで資金の出所を分かりにくくするのは、ソロス氏の常套(じょうとう)手段だ。
一方で、ソロス氏の家族はブラッグ氏に直接資金を提供している。 息子ジョナサン・ソロス氏と同氏の妻ジェニファー・アラン・ソロス氏が、それぞれ1万㌦を献金。 ソロス一族がブラッグ氏を強く推していたことは明らかだ。
ソロス氏が支持する地方検事長に共通するのは、犯罪者を差別的な米国社会の犠牲者と捉え、黒人ら有色人種に対する差別が構造的に組み込まれた刑事司法制度の抜本的改革を目指していることだ。 彼らはこうした政治思想に基づき、犯罪者への求刑を軽くし、軽犯罪であれば起訴を見送り、保釈金も設定せずに釈放してしまうなど、犯罪者に甘い対応を取っている。
このため、極左地方検事長の管轄地域では、警察が危険な犯罪者を捕まえても、すぐに釈放されるということが繰り返されている。 米国では近年、都市部を中心に凶悪犯罪の増加など治安悪化が深刻化しているが、ソロスマネーが極左地方検事長を次々に誕生させていることも大きな要因だ。
ブラッグ氏は昨年1月に就任するとすぐさま、▽大麻の違法所持や公務執行妨害、売春などの軽犯罪は起訴しない▽本来は重罪である商業施設での武装強盗や住居不法侵入もケースによっては軽犯罪として扱う▽殺人や凶器による暴行、家庭内暴力、性犯罪、汚職、重大な経済犯罪などを除き、懲役刑は求刑しない――といった方針を発表した。 批判を受けて方針は一部修正されたが、犯罪を助長する恐れのある内容ばかりだ。
犯罪者をできるだけ起訴しない、刑務所に送らないというのがブラッグ氏の基本姿勢だが、例外がある。 それは相手がトランプ氏である場合だ。
トランプ氏は16年大統領選中に不倫相手に支払った口止め料を巡りビジネス記録を改竄(かいざん)したとして34件の重罪に問われているが、ニューヨーク州ではビジネス記録の改竄は軽犯罪だ。 これが重罪となるのは「他の罪を犯す意図、またはその罪を幇助(ほうじょ)、隠蔽(いんぺい)する意図」がある場合だが、法律専門家からは重罪に問うのは無理があるとの指摘が相次いでいる。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「疑問なのは、起訴がドナルド・トランプという名前でない被告に対して起こされていたかどうかだ。ノーと答えないわけにはいかない」と指摘した。 ブラッグ氏のソロス氏とのつながりや極左の政治姿勢から、起訴にトランプ氏を追い詰めるという政治的な思惑はないと考えるのは難しい。