全米の多くの大学で推進されてきた「多様性の公平性と包括性」(DEI)プログラムについて、廃止する動きが出ている。白人学生への差別的扱いや教員採用の際に左派思想に同調しない求職者が排除されることへの懸念が保守派を中心に高まっているからだ。(ワシントン・山崎洋介)
DEIの問題を指摘してきた保守派ジャーナリストのクリストファー・ルフォ氏は2月上旬、南フロリダ大学におけるDEIプログラムの資料を入手し、公開した。白人学生に対して罪悪感を植え付けるような講習が行われていたことを明らかにした。
資料によると、白人向けの講習に参加した学生はまずアイデンティティー「崩壊」のプロセスに入り、「白人であることの罪悪感」を経験した後、「再統合」の段階に移り、「自分が白人であることは悪いことではない」と考えるという。しかし、「こうした感情を克服する」ことで、最終的には「抑圧システムに反対する活動」を始めるようになるとされている。
同大による「反人種主義」ガイドブックには、「(黒人への)賠償」「警察予算の削減」「刑務所廃止」の促進など、急進左派的な政治目標が謳(うた)われている。ルフォ氏によると、同大のDEIプログラムの最終目標は、こうした左翼的な政治目標の推進であるという。
また多くの大学では、教員採用においてDEIに対するこれまでの取り組みと今後の計画を表明する短い論文「DEI宣言」の提出を求めている。これについては、保守系非営利団体「全米学識者協会」のジョン・セイラー上級研究員による情報公開請求によって、テキサス工科大学生物学部に教職員として応募した十数人のDEI宣言の評価内容が明らかになった。
例えば、ある応募者は「私は学生を尊重し、平等に扱っているので、DEIが課題だとは思わない」と述べたが、「公平性と包括性の問題に対する理解の欠如を示している」として減点された。その逆に、別の応募者は「無意識的な偏見」を持っていることについて自覚しているとして評価された。
セイラー氏は今月上旬、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙への寄稿で、採用の際にDEIへの取り組みを教員に求めることは、「科学者としての能力とは無関係に、正統とされる見解に異を唱える者を排除することになる」と警告した。
また、DEIの一環として、セントラルフロリダ大学は、白人学生を明確に排除する奨学金制度を推進しているが、こうした方針は人種差別を禁じた公民権法に違反するものだと指摘されている。
2020年に黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官に首を圧迫され死亡した事件をきっかけに、各大学はDEI推進を加速させており、今では全米の大学に深く浸透している。保守系シンクタンク、ヘリテージ財団が21年に65の米大学を対象に調査したところ、各大学に平均45人ものDEI担当スタッフがいることが分かった。これは歴史学の教授の1・4倍の数だという。
DEIへの懸念が保守派を中心に高まる中、その廃止に動いたのが、24年大統領選の共和党有力候補の一人であるフロリダ州のデサンティス知事だ。1月下旬には同州公立大学がDEIプログラムに資金提供することや教員の雇用や昇進のためにDEI宣言を使用することを禁止する法案を提案した。州内の公立大学の学長28人も先月18日、共同声明を発表し、DEIの取り組みを支持しないことを明確にした。
セイラー氏がテキサス工科大学の問題をWSJ紙で報じた直後、同大学はDEI宣言の使用を中止したとする声明を発表した。その翌日には、テキサス州のアボット知事の首席補佐官は、DEIプログラムが公民権法に違反しているとする書簡をすべての州立大学に送り、「DEIの取り組みは、多様性を高めるどころか、逆に差別を助長している」と警告した。
こうしたDEI見直しの動きが加速する中、今後どこまで広がりを見せるか注目される。