
米国では保守派を中心に、同性婚を認めて一夫一婦の結婚の枠組みを崩してしまうと、いずれ一夫多妻、一妻多夫、重婚、複婚、近親婚などあらゆる形態を認めざるを得なくなり、結婚制度そのものが崩壊してしまうと警鐘を鳴らしてきた。同性婚が全米で合法化された2015年の連邦最高裁判決から7年が経過したが、その懸念は次第に現実のものになっている。(編集委員・早川俊行)
「法的に正式な関係や血縁関係に与えられるのと同じ保護を受けるために、なぜ2人という制限が家族的関係の定義に加えられるのか」
ニューヨーク市民事裁判所のカレン・メイ・バクダヤン判事は先月、結婚を2人と定義することに疑問を呈し、ポリアモリー(同時に複数の相手と持つ性愛関係)も結婚に相当する関係と認めることに前向きな見解を示した。
同裁判所が審理しているのは、亡くなった男性と同棲(どうせい)していたゲイのパートナーがアパートの立ち退きを求められたことをめぐる裁判。訴訟を起こした男性は亡くなった男性のアパート契約を引き継ぐ権利を主張しているが、2人に婚姻関係はない。亡くなった男性は別居中の別の男性と結婚していた。
同裁判所は3人の男性がポリアモリーの関係にあったかどうかを調べることを決めた。バクダヤン判事は、同性婚を憲法上の権利と認めた15年の最高裁判決について、「問題は2人の関係しか認めていないことだ。判決は革命的だったが、2人だけが家族的関係を築くことができるという多数派の社会的見解に固執していた」と指摘。「しかし、判決は他の関係の構成要素を検討する扉を開くものであり、おそらくその時が来た」と述べ、ポリアモリーの関係にある人々にも家族の定義を拡大すべきと主張した。
こうした議論が出てくることは、同性婚が認められた時点で時間の問題とみられていた。ジョン・ロバーツ最高裁長官は、同性婚合法化判決の反対意見で、「多数派の論理が複婚の基本的権利の主張にも当てはまることは驚くべきことだ。結婚したいという2人の男性または2人の女性の間の絆に尊厳があるとすれば、なぜ3人の絆は尊厳が劣るのか」と述べ、最高裁多数派の論理に従えば、重婚や複婚を禁じることはもはやできなくなるとの見解を示していた。
マサチューセッツ州では2020年以降、二つの市がポリアモリーを結婚に相当する関係と認める条例を制定した。世界最高学府ハーバード大のあるケンブリッジ市がその一つだ。
ユタ州では20年に、一夫多妻を重罪から軽犯罪に引き下げる法律が成立した。同州は人口の6割以上をモルモン教徒が占めるが、モルモン教会はかつて一夫多妻を認めていた。一夫多妻を禁止することで州昇格が認められた経緯を持つ同州でも、多様な家族の在り方を尊重する風潮が押し寄せている。
モルモン教会の分派を中心に、米国では一夫多妻を実践する人が3万人以上いると言われ、彼らは「結婚の平等」が同性愛者だけでなく一夫多妻主義者にも拡大されるべきだと訴えている。
ギャラップ社が今年5月に実施した世論調査では、一夫多妻など重婚や複婚を「道徳的に許容できる」と回答した人は23%に上り、10年の7%から3倍以上に増えた。結婚・家族に対する米国民の価値観は急速に変化している。
