
米軍施設に近い土地を購入する中国企業の動きに、米国で警戒感が高まっている。51人の共和党下院議員は先月下旬、中国政府と関係の深い企業が、米中西部ノースダコタ州の空軍基地近くの農地を買収したことをめぐり、オースティン国防長官らバイデン政権の閣僚3人に書簡を送り、スパイ活動に利用される恐れがあると警告した。(ワシントン・山崎洋介)
ノースダコタ州におけるトウモロコシ製粉工場の建設計画が、全国的な注目を集めている。発端は中国の食品メーカー「阜豊集団」がこの春、工場を建設するため同州グランドフォークスの120ヘクタールの土地を230万㌦で購入したことだ。
問題は、この土地がグランドフォークス空軍基地からわずか19㌔㍍の場所にあることだ。同基地は無人偵察機の本拠地であるほか、同州選出のジョン・ホーベン上院議員(共和党)は米メディアに、同基地には「世界中に広がる米軍の通信網の基幹」となる新たな宇宙通信網の拠点があると指摘している。こうしたことから、この土地買収が安全保障上の問題として浮上している。
カルロス・ヒメネス下院議員(カルフォルニア州選出)ら共和党議員は書簡で、買収された土地は「軍事活動を注意深く監視し、傍受するのに理想的な場所である」と指摘。その上で「中国共産党と結び付いた組織が、商用を装ってスパイ活動を行う可能性がある」と警鐘を鳴らした。
さらに、この土地購入が前例となり、中国共産党とつながりのある企業が新たに米軍施設近くの土地を買収する可能性があるとも強調。国防総省や財務省、農務省に対し、「この取引から生じると思われる潜在的な国家安全保障上のリスクに対処するために効果的な行動を取る」よう求めた。
この土地買収に対しては、以前から重大な安全保障上の懸念が指摘されていた。
米議会の諮問機関「米中経済安全保障調査委員会」は5月に発表した報告書で、同社が中国政府とのつながりが深いとした上で、同空軍基地が「米国の最高レベルの情報、監視、偵察能力を有している」と指摘。買収された土地は、「特に基地に出入りする航空機の流れを監視するのに都合が良い」と警戒感を示した。
また米メディアによると、空軍のジェレミー・フォックス少佐は4月に発表したメモで、中国が同基地近くで情報収集活動を行った場合でも、米軍が検知するのは困難だと指摘し、「近隣の土地へのアクセスが敵に与えられ、われわれを標的に情報収集が行われた場合、それは米国の戦略的優位性に重大な損害を与える」と主張した。
中国企業による軍事基地の近くの土地買収が問題となったのは、今回のケースが初めてではない。中国共産党と非常につながりが深い中国の富豪、孫広信氏は、テキサス州デルリオ近郊で32ヘクタールの土地を買収し、風力発電所の建設を計画した。
しかし、その土地はラフリン空軍基地からわずか数㌔程度の場所にあり、スパイ活動や電力網に対するサイバー攻撃などへの懸念を訴える声が相次いだ。このため、テキサス州では昨年6月、同計画を阻止するため、「敵対的な国」に関連する事業体が電力網などの重要インフラにアクセスするのを防ぐ法律を成立させている。
米農務省の報告書によると、中国の投資家が所有する米国の農地の面積は、2010年からの10年間で約25倍に増加した。米国ではこうした状況に警戒感が高まっており、対応を訴える声が高まっている。
次期大統領選への出馬が取り沙汰されているフロリダ州のデサンティス知事(共和党)は7月に出演したテレビ番組で、中国共産党とつながりのある企業が同州の農地などを買い占めていると非難。「何をしているか表面上は分からないが、大きな問題だ」として対応する必要性を訴えた。